市場ではネコが大活躍!とっても働き者なのだ。豊洲市場の文化団体「銀鱗会」の事務局長である福地享子さんが、2018年11月までdancyu本誌で執筆していた「築地旬ばなし」の転載です。
写真は、日だまりで眠りこけるネコの図、である。アッ、もしや、写真のなかに、おなか丸出しで寝てるふてえネコ野郎なぞ、お探しで?ネットでは、その種の寝姿が人気のようですが。そのようなネコをお探しなら、ご苦労様としか言いようがない。
ネコはネコでも、ここにならぶ分厚い板をつなげたような代物を、河岸では「ネコ」とよんでいる。ていねいに申すなら「ネコ車」。ほれ、車輪が見えますでしょ。
築地市場は物流の拠点。魚でも野菜でも、入ってきたものを右から左へ、そして外へと送り出すのが仕事である。大は2トントラック、フォークリフト車、おなじみターレット、荷車を細身に改良した小車、自転車、小は仕入れかごに人間様の肩車と、場内はさながら運搬道具の見本市といっていい。
そして、ネコ車も重要な運搬の担い手なのである。荷台は長さ1m、幅は70cmほど。鉄の車輪が4つ。荷台に付いている鉄製の細長い棒を引っ張って移動する。小車以前、きわめて素朴な形だが、冷蔵倉庫周辺などでの活躍はめざましい。鼻毛がキュッと凍りつく超低温の冷蔵倉庫に荷物を山と積んでは、出たり入ったりと、まこと健気である。
誕生したのは戦前。なぜネコか。ネコときたら魚だ。その魚を運ぶ車ゆえ「ネコ車」。馬車があり、牛車をまだ見かけた時代だと思えば、小ぶりな形は、ネコとするのがふさわしい。ま、河岸の人間は、洒落好きがそろっているし。
築地市場は豊洲新市場への移転が延期となり、妙な注目を集めている。遠くの友人が「で、どうなの」と聞いてくる。うーんと唸るしかない。それぞれの胸の内に意見はあっても、日常はまったく変わらないのだから。河岸のネコが黙々と魚を運んでいるのと同じように。夜からの一仕事を終え、眠りこけてる河岸のネコ。今、ちょっと胸に滲みる光景である。
文:福地享子 写真:平野太呂
※この記事はdancyu2016年11月号に掲載したものです。