市場旬ばなし
市場の運搬を担うネコ|市場旬ばなし⑯

市場の運搬を担うネコ|市場旬ばなし⑯

市場ではネコが大活躍!とっても働き者なのだ。豊洲市場の文化団体「銀鱗会」の事務局長である福地享子さんが、2018年11月までdancyu本誌で執筆していた「築地旬ばなし」の転載です。

なんだか浮足立つ情報ばかり。だから今、「河岸のネコ」たちの日々が胸にしみる

写真は、日だまりで眠りこけるネコの図、である。アッ、もしや、写真のなかに、おなか丸出しで寝てるふてえネコ野郎なぞ、お探しで?ネットでは、その種の寝姿が人気のようですが。そのようなネコをお探しなら、ご苦労様としか言いようがない。

ネコはネコでも、ここにならぶ分厚い板をつなげたような代物を、河岸では「ネコ」とよんでいる。ていねいに申すなら「ネコ車」。ほれ、車輪が見えますでしょ。

築地市場は物流の拠点。魚でも野菜でも、入ってきたものを右から左へ、そして外へと送り出すのが仕事である。大は2トントラック、フォークリフト車、おなじみターレット、荷車を細身に改良した小車、自転車、小は仕入れかごに人間様の肩車と、場内はさながら運搬道具の見本市といっていい。

そして、ネコ車も重要な運搬の担い手なのである。荷台は長さ1m、幅は70cmほど。鉄の車輪が4つ。荷台に付いている鉄製の細長い棒を引っ張って移動する。小車以前、きわめて素朴な形だが、冷蔵倉庫周辺などでの活躍はめざましい。鼻毛がキュッと凍りつく超低温の冷蔵倉庫に荷物を山と積んでは、出たり入ったりと、まこと健気である。

誕生したのは戦前。なぜネコか。ネコときたら魚だ。その魚を運ぶ車ゆえ「ネコ車」。馬車があり、牛車をまだ見かけた時代だと思えば、小ぶりな形は、ネコとするのがふさわしい。ま、河岸の人間は、洒落好きがそろっているし。

築地市場は豊洲新市場への移転が延期となり、妙な注目を集めている。遠くの友人が「で、どうなの」と聞いてくる。うーんと唸るしかない。それぞれの胸の内に意見はあっても、日常はまったく変わらないのだから。河岸のネコが黙々と魚を運んでいるのと同じように。夜からの一仕事を終え、眠りこけてる河岸のネコ。今、ちょっと胸に滲みる光景である。

旬事情
今年も秋刀魚の山椒煮をつくった。醤油やみりんのほかに、酢小さじ1杯ほど入れ、圧力鍋で骨がほろりとなるまで炊き上げる。新米と仲良しの常備菜だ。

文:福地享子 写真:平野太呂

※この記事はdancyu2016年11月号に掲載したものです。

福地 享子

福地 享子 (豊洲市場銀鱗会事務局長)

豊洲市場の文化団体、銀鱗会の事務局長。豊洲市場内の資料室「銀鱗文庫」のお留守番役。築地市場時代の雰囲気を残した銀鱗文庫は、ミニギャラリーも併設。見るのが楽しい資料室となっている。