市場旬ばなし
奥深い鰹節の世界|市場旬ばなし⑮

奥深い鰹節の世界|市場旬ばなし⑮

削り節専門店「松村」の奥深い鰹節(かつおぶし)のはなし。豊洲市場の文化団体「銀鱗会」の事務局長である福地享子さんが、2018年11月までdancyu本誌で執筆していた「築地旬ばなし」の転載です。

今朝も真っ白な蒸気が上がっている。戦前からの佇まいを残す削り節専門店

小さな煙突からたちのぼる蒸気が、朝の空に溶けこんでいく。店頭には、削り節が昔ながらの木箱にあふれんばかり。築地市場の海幸橋入口にある鰹節、というか削り節専門店の「松村」にひさしぶりにお邪魔した。

削り節は、荒節という黴付けする前の鰹節を使う。まずは水洗いし、ほどほどに柔らかくするために蒸す。朝の4時ごろから煙突がはきだす蒸気はこのときのものであり、店が景気よく回っている目印でもある。蒸して冷めたら、削り器にかける。花びらのように削り節が舞い落ちる。不格好な茶色の木切れみたいな荒節の姿を思えば、花のひとひらに変わる瞬間は、まるで手品だ。別名「花鰹」とは、よくも名付けたものだ。とまあ、感心しているのは私だけで、なにせ繁忙期で1日1t、そうでない日でも300kgの削り節をつくるのだから、店内はただもう慌ただしい。

削りたてのフワフワは、そのまま店頭に直行だ。店の前、メインにならんだ四つのフワフワは微妙に値段が違う。このさい、ミエ張って高いものを、と考えがちだが、そこは奥の深さというか、値段はあまり左右しない。特上品は鰹だけ、ちょっと安めは宗太鰹が混ぜてある。上品なお吸い物には特上の鰹だろうけど、煮物用にこくのある味を求めるなら宗太鰹のミックスがおすすめ。あくまで使い道による。

そのほか、鰯節に鯖節の削り節、店頭には出してないけど、黴付けした本枯れ節の削り鰹、ちょっと変わったところで、めじ鮪や本枯れ節の粉節もある。粉節なんて、削り節のカスじゃない?と、バカにしてたけど、ちゃんとそれ用につくったものだ。社長の松村茂さんの「飯に、ちょっと醤油たらして混ぜて。これ、酒の締めに最高」という言葉につられて買ってみた。このところ私のお弁当は、醤油たらりの粉節を混ぜたおにぎりがずっと続いている。これがまたおいしいの。

旬事情
「松村」の削り節は、基本、業務用だから、キロ単位の値段で表示してあるが、実は200gから買える。昔風の紙袋もいい感じで、小さな手土産にも喜ばれそう。

文:福地享子 写真:平野太呂

※この記事はdancyu2017年6月号に掲載したものです。

福地 享子

福地 享子 (豊洲市場銀鱗会事務局長)

豊洲市場の文化団体、銀鱗会の事務局長。豊洲市場内の資料室「銀鱗文庫」のお留守番役。築地市場時代の雰囲気を残した銀鱗文庫は、ミニギャラリーも併設。見るのが楽しい資料室となっている。