カレーが大好きで、日々カレーを食べ歩く松尾貴史さんのよる新連載「カレードスコープ」!第二回は大阪・北新地にある蕎麦屋「瓢亭」のカレーの話。
大学のデザイン学科に通っていた頃、グループ展の流れで津高和一さん、元永定正さんという抽象画の巨匠お二人に連れられ、生まれて初めて食べた柚子切り蕎麦で驚愕し、今でも通い続ける蕎麦店だ。
私はその時、柚子切り蕎麦という存在に初めて触れたので、麺からその香りがするのか、つゆからするのかが判然としないままに、やみつきになってしまった。
古くは上方落語で初の人間国宝となった桂米朝さんや俳人・随筆家で「なだ万」を実家に持つ楠本憲吉さんなど、著名な文化人も愛した名店である。
さびしい懐と相談しながらも背伸びをして通っていた名店なのだが、その頃の私はいわゆる大食漢で、名物の柚子切り蕎麦「夕霧そば」や、「曽根崎心中」の登場人物「お初」に因んだ梅切りそば「お初そば」という名物を食べた後、「〆」として、いつもこのカレーそばを食べていた。
よくある「カレー南蛮」とはどこか風情が違う。蕎麦が蕎麦やスパゲティのように丼ではなく皿に盛られていて、そこに古き良き洋食のような質感の、ポタポタとしたルーがかかっているのだ。昔は肉とエビの両方が具になっていた記憶があるが、今は食感と香りの良いエビのカレーになっている。そこに、質の良い青ネギが「くたり」と寄り添っている。
その後、先に山芋の海苔巻きなどをつまみつつ酒を飲む蕎麦前を楽しんでから、ゆずや梅のさっぱりとした切り蕎麦の香りを楽しんで、とどめにカレーで胃袋を黙らせるというお決まりのコースができて、毎度毎度満腹になって店を出るという、若いのかひねているのかわからない習慣が染みついた。
カレー自体は懐かしい質感だが、これがなぜか蕎麦と付け合わせの赤い福神漬けにぴったり寄り添うのだ。
文・写真:松尾貴史