市場旬ばなし
謎が深まる東京湾のハマグリ|市場旬ばなし④

謎が深まる東京湾のハマグリ|市場旬ばなし④

東京湾から姿を消したというハマグリが再び繁殖?豊洲市場の文化団体「銀鱗会」の事務局長である福地享子さんが、2018年11月までdancyu本誌で執筆していた「築地旬ばなし」の転載です。

2種類ある?産地も変わった?一体なぜ?雛祭りの定番、ハマグリを巡るミステリー!

雛祭りに向けて、2月の終わりころから、河岸もハマグリの注文が増える。流通しているほとんどは、中国産の「シナハマグリ」だ。国産のハマグリと違い、殻に艶がないのが特徴だ。20年以上、ハマグリを担当しているアオキクンに言わせると、中国産といっても、北朝鮮産中国経由もあるらしく、こちらのほうが身質はいい、と言う。

現場の人は、現場らしい目でモノを見るのでおもしろい。国産のハマグリは、内海の砂浜に生息する「ハマグリ」と外海に生息する「チョウセンハマグリ」とがある。河岸で見かける「ハマグリ」は三重県の桑名産ぐらいで、基本は「チョウセンハマグリ」だ。地物と呼ばれたりもする。産地は、ひところは茨城県鹿島が圧倒していた。ところが千葉県九十九里の飯岡に移り、今は南に下った成東や片貝。主産地が移動している。ハマグリは、環境が悪くなると長距離移動するという。アオキクン説も「鹿島の殻はきれい。成東や片貝は、ちょっと見劣りする。海底を転がったんだよ」。鹿島から飯岡へ、さらに南へという大移動の結果なのだろうか。

移動といえば、東京湾内でも不思議が起きている。数年前から、江戸川河口や多摩川河口で、ハマグリがとれている。東京湾から、姿を消して久しいといわれるのに。人知れず生きていたものが繁殖したのだろうか。だとすれば「ハマグリ」だ。昨年の春、入荷した江戸川河口の葛西産を、海の生物の専門の先生に鑑定してもらった。答えは、チョウセンハマグリ。外海に棲むはずなのに、東京湾の奥で、どうして?

貝塚からもっとも出土する貝は、ハマグリ。魚河岸があった日本橋の遺構調査でも、ダントツ1位でハマグリが出土した。太古からずっと食べているのに、疑問がわくと、わからないことばかり。ミステリーを読んでいるみたい。いや、現場をウロウロ歩きながらのことだから、それ以上かも。

旬事情
こっそり情報をお伝えすると、2月は中国産が減るし雛祭り需要で値段は高め。3月終わりから産卵前の4月いっぱいまでが、値段も安定しておすすめ月。

文:福地享子 写真:平野太呂

※この記事はdancyu2018年3月号に掲載したものです。

福地 享子

福地 享子 (豊洲市場銀鱗会事務局長)

豊洲市場の文化団体、銀鱗会の事務局長。豊洲市場内の資料室「銀鱗文庫」のお留守番役。築地市場時代の雰囲気を残した銀鱗文庫は、ミニギャラリーも併設。見るのが楽しい資料室となっている。