酒米を知れば、日本酒がもっと楽しく!
日本酒ビギナーのための酒米講座【後編】~酒米はどのようにしてつくられるのか?

日本酒ビギナーのための酒米講座【後編】~酒米はどのようにしてつくられるのか?

酒造りの盛んな県が生んだ、県産米の味わい

吟吹雪:ぎんふぶき――滋賀県の誇りを背負う

たんぼ
吟吹雪の稲刈りの様子。(提供:冨田酒造)

滋賀県産の酒米で、粒の大きな玉栄と山田錦の交配品種。より大きな山田錦がつくりたいという狙いがわかりやすい交配例。結果、大粒かつ心白が出やすい品種となった。

副島先生
心白を吹雪に見立てたネーミングに開発者の喜びを感じる。米処であり酒処でもある近江盆地の新定番となることを期待したいですね。
酒瓶
七本鎗 純米吟醸 吟吹雪
造り:純米吟醸/蔵元:冨田酒造(滋賀県)/価格:1870円(税込み)
460年以上の歴史をもつ古い蔵。米に注力した酒造りに定評があり、どの酒も滋味を感じさせるしみじみした味わい。滋賀県産の玉栄でも酒を醸しており、吟吹雪と飲み比べも。
小倉社長
玉栄の渋い味と山田錦のボリュームのいいとこ取りをした印象。滋味深い味で噛みしめることで味わいがはっきりしてくる。米の印象を感じやすい造り手の酒。



誉富士:ほまれふじ――静岡県の隠し玉の優良種

静岡県の酒米で、山田錦の耐倒伏性の改良するため放射線処理と有望な株の選抜によって誕生。収量も多く、山田錦の酒造適性のよさも継承され、使いやすい品種となった。

副島先生
放射線処理というとドキッとする人もいるかもしれませんが、植物の品種改良では一般的で安全なものですのでご安心を。
酒瓶
白隠正宗 誉富士
造り:純米大吟醸 生もと造り/高嶋酒造(静岡県)/価格:2585円(税込み)
酒造りの盛んな静岡の蔵。沼津市の海のすぐ近くにあり、「地酒は地物と一緒にあるべき」と地元の干物を肴に飲みたくなる酒を醸す。やわらかいタッチの酒質に定評がある。
小倉社長
仕込み水が軟水で酒のタッチもやわらかい。酸や旨味といった味の構成ではなく、円い味わいが自然に膨らむ。水と米だけの味。体液のように体になじむ。



八反錦:はったんにしき――広島県の看板となる酒米

銘醸地・広島を代表する県産米。もともと県産米の代表格であった八反35号にアキツホを掛け合わせ、弱点を克服。1号、2号の姉妹品種があり特徴が異なる。

副島先生
味わいはスッキリして上品。岡山に雄町があれば、広島には八反錦あり、といった気概を感じさせる。
酒瓶
富久長 八反錦
造り:特別純米 本生/蔵元:今田酒造本店(広島県)/価格:1650円(税込み)
古くは女人禁制ともいわれた酒造りの世界で、女性蔵元として脚光を浴びる今田美穂さんが率いる蔵。英BBC放送で「100人の女性 2020」にも選出された。
小倉社長
八反錦を飲むと青っぽさを感じる。ワインでいえばソーヴィニヨン・ブラン。米の持ち味を素直に表現している印象。広島の小粒の牡蠣と合わせたくなる。

酒米には、農家と蔵元の思いが込められている!

たんぼ
静岡県の県産米、誉富士の田。たくましさを感じる。(提供:高嶋酒造)

比較的よく目にする酒米を中心に紹介したが、まだまだ品種はたくさんある。「もっと旨い酒を醸したい」――その一心で、今でも県の農業試験場などでさまざまな品種改良が行なわれている。そこから農協などを通じて各農家へと受け継がれ、毎年営々と続いてきたのが酒米づくりだ。しかしコロナによる自粛で酒の消費が落ち込み、農業も危機に直面している。ここはひとつ、旨い酒を買って飲むことで少しでも農家や蔵元たちにエールを送ってはどうだろうか。

酒米を知ると農業と酒造りに情熱を傾ける人たちの息づかいが聞こえてくる。ぜひ近くの酒販店やオンラインショップなどでいい酒に出合ってほしい。

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小倉秀一(おぐら・しゅういち)

小倉秀一(おぐら・しゅういち)

「いまでや」代表取締役社長。全国の地酒や本格焼酎、ワインなど美酒をそろえる。酒の輸出にも力を入れている。

IMADEYA本店
【住所】千葉市中央区仁戸名町714‐4
【電話番号】043‐264‐1439
【営業時間】11:00~19:00
【定休日】水曜(毎月最終週の水曜は通常営業)
※他、千葉エキナカ店、GINZA SIX店がある。定休日、営業時間などは施設に準ず。

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副島顕子(そえじま・あきこ)

副島顕子(そえじま・あきこ)

熊本大学大学院先端科学研究部教授。専門は植物系統分類学。趣味で日本酒指導師範などの資格も取得する酒好き。著書に『酒米ハンドブック』(文一総合出版)がある。

文:深井戸 月 写真:相澤 正

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