酒米を知れば、日本酒がもっと楽しく!
酒、肴、酒の順でもっと美味しく!|酒屋推薦。米の味がする日本酒⑤

酒、肴、酒の順でもっと美味しく!|酒屋推薦。米の味がする日本酒⑤

日本酒に合わせる肴に迷ったら酒米に注目してみよう。品種や産地には、美味しい組み合わせのヒントが隠されている。田んぼから飲み手まで続く日本酒リレー、その担い手である酒販店が日本酒と米の関係を語ります。5回目は、「大和屋酒舗」が「神雷」「宝剣」「御前酒」「出雲富士」の4種をピックアップ。

料理をどっしりと支える酒の味わいとは?

日本酒の原点には米づくりがある。
蔵元と農家が意見交換をすることで、お互いの“つくり”に強く影響し合い、より良い酒の仕上がりを目指している。
酒米が醸す日本酒の個性豊かな余韻には、つくり手の熱意が込められていることを前回の取材で実感した。

「良い米づくりから仕上がった日本酒は料理との相性が抜群なんです」と語るのは、広島県で「大和屋酒舗」を営んでいる大山晴彦さん。
「上質な米の味わいが表れている酒ほど、料理の特徴をきれいにまとめてくれるように思います。僕はよく、料理をどっしりと支える“だしのような酒”と表現しているんですよ」

店主の大山晴彦さん
「確かな品質の酒とそこに繋がる、縁、絆を届けています」と店主の大山晴彦さん。
店舗
「大和屋酒舗」が揃える酒のコンセプトは、“料理を美味しくするハリと余韻”。

「日本酒の原料は2割が米で、8割が水。米の個性を水で引き出すのが日本酒だと考えると、カツオや昆布の味わいを水に移すだしと似ていると思いませんか?」と大山さん。
つくる料理によってだしの種類が違うように、料理と酒の相性は米の個性を知るとわかりやすくなるという。
酒販店の傍ら懐石料理の店も営んでいたという大山さんに、料理と引き立て合う4本の日本酒を紹介してもらった。

酒米と水が融和する“素朴の最高峰”

日本酒瓶
神雷 青ラベル(しんらい あおラベル)
使用米:千本錦/造り:特別純米/蔵元:三輪酒造/価格:1584円(税込み)

――まずは広島の地酒「神雷」ですね。こちらはどんな味わいですか?

口あたりがまるく仕上がる“千本錦”の特徴がよく表現された味わいです。広島でとれる軟水で仕込んでいるので、穏やかで心地よい熟成感を感じる仕上がりになっています。食中酒にぴったりな“素朴の最高峰”といった酒ですね。

――「神雷」はどんな料理と合いますか?

「神雷」の素朴で熟成感のある旨味には、醤油と味醂を使ったコテッとした煮込みがよく合います。燗酒にしてチビチビやるのもお薦めです。

海の幸に合わせたい“THE瀬戸内純米酒”

日本酒瓶
宝剣(ほうけん)
使用米:八反錦/造り:純米/蔵元:宝剣酒造/価格:1375円(税込み)

――同じく広島から「宝剣」。男らしい硬派なラベルが印象的ですね。

”八反錦”の辛口でシャープな風味がありつつ、しっかりとした米味の余韻があります。瀬戸内の伝統である”軟水醸造法”によって麹をしっかり育てているので、穏やかながらも余韻を感じさせる味わいの幅が魅力の酒です。

――お薦めの料理を教えてください。

仁方という港町で造られているせいか、不思議と魚料理と合わせたくなります。瀬戸内の淡白な魚を使った寄せ鍋と「宝剣」ならいくらでも食べて飲めますよ。白身の刺身を塩と柑橘だけで食べるのもいい。魚のシンプルな旨味や肉質と「宝剣」のもつ余韻が見事にフィットします。

やさしい乳酸をまとった“マッコリ系”日本酒

日本酒瓶
御前酒(ごぜんしゅ)1859
使用米:雄町/造り:純米/蔵元:御前酒蔵元辻本店/価格:1540円(税込み)

――名前にある“1859”にはどんな意味があるのでしょうか。

岡山産“雄町”の歴史が始まったのが1859年なんです。これからも“雄町”とともに歩んでいくという「御前酒」の覚悟が表れているのだと思います。やさしい乳酸系の風味があって、ふくらみのある米の旨味を感じさせてくれます。岡山産“雄町”らしい野性味もありますね。

――「御前酒」のやさしい乳酸はどんな料理と合わせればよいでしょう?

キムチやチヂミといった韓国料理と試してみてください、マッコリ的な乳酸と相性抜群です。“雄町”と“菩提酛造り”の掛け合わせで生まれた旨味と酸は、今までの日本酒にない新しい魅力なのでぜひ飲んでみてほしいです。

出雲で生まれただしと縁を結ぶ酒

日本酒瓶
出雲富士 黒ラベル(いずもふじ くろラベル)
使用米:佐香錦/造り:特別純米/蔵元:富士酒造/価格:1529円(税込み)

――出雲富士のラベルには赤、青、白、黒と4種類あるのですね。

「出雲富士 黒ラベル」は島根産“佐香錦”のコクとキレを生かした酒です。苦味や渋味が重なった複雑で心地のいい旨味があるんです。酒単体で飲むよりも料理と一緒に味わうことで楽しめると思います。温めると香りが高まってくる燗映えする酒でもあります。

――苦味や渋味のある酒はどんな料理と相性がよいのでしょうか。

酒と同じように苦味や渋味がある山菜の天ぷらとよく合います。蔵がある山陰地方の名物の蟹を使って、複雑な味の要素をもったカニクリームコロッケなんかと合わせても美味しいと思いますよ。

大山流 酒と料理をより楽しむ方法

「日本酒と料理の相性を感じるコツとしては、最初に酒を口にしてから料理を食べてください。そして、もう一度酒を飲む。この飲み方をするだけで、舌で感じる味わいが鮮明になりますよ」と教えてくれた大山さん。
実際にやってみると、日本酒の穏やかな酸で味覚が締まり、その後に食べる料理の輪郭がはっきりと見えてきた。
料理の味わいを引き立たせる酒の滋味深さが、食材に寄り添って味わいをふくらませるだしのように感じて、大山さんの言葉が腑に落ちる。

大山さん流の酒と料理の相性の感じ方は、メニューがずらりと並ぶ飲食店でも役立ちそうだ。
日本酒を飲みつつ、お品書きを見て「よし、この肴でいこう」とあたりをつける、あの瞬間がますます楽しみになるに違いない。

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大山晴彦(おおやま・はるひこ)

大山晴彦(おおやま・はるひこ)

1973年広島県生まれ。大学卒業後、日本名門酒会を運営する株式会社岡永に入社し首都圏の営業を担当。2000年に家業である「大和屋酒舗」に入社。2014年、代表取締役に就任。美味しいお酒との出会いづくりと、美味しい街創りに貢献できる酒販店である事をミッションとし活動をしている。

大和屋酒舗
【住所】広島県広島市中区胡町4‐3
【電話番号】082‐241‐5660
【営業時間】10:00~21:00
【定休日】日曜、祝日

文:山田和正 撮影:kuma*