酒米を知れば、日本酒がもっと楽しく!
日本酒ビギナーのための酒米講座【後編】~酒米はどのようにしてつくられるのか?

日本酒ビギナーのための酒米講座【後編】~酒米はどのようにしてつくられるのか?

日本酒の主な原料は米と水。でも意外に知らないのが米の種類とその特徴だ。実はたくさんの品種がある。“酒米”と呼ばれる酒造りのために栽培されている米について知ると、酒の背景にも興味がわいて、飲むのが楽しくなる。そして何より、酒米を育てる農家、酒を醸す蔵元の営みに思いを馳せれば、酒が一層おいしく感じられるはず!前編に引き続き、熊本大学の副島顕子先生と「いまでや」の小倉秀一社長のコメントとともに、酒米と酒を見ていこう。

より旨い酒を求めて、酒米は品種改良されてきた!

日本酒ビギナーのための酒米講座【前編】では、作付け面積第1位~4位の代表品種を紹介した。だが酒米と一言でいっても、現在栽培されているものだけでも100種類以上。そして今なお品種改良の取り組みが進められている。

品種改良は特定の性質を強くもっている有望な株の選別や品種の掛け合わせをする人工交配、放射線(ガンマ線)照射による人為的な突然変異などで新たな特徴をつくり、それをさらに選別しながら品種を固定していく作業。ざっと10年以上はかかる先の長い取り組みなのだ。

そうした米の由来や系譜に思いを馳せるのも、酒のロマンといえるだろう。知らない米の名前を見つけたらネットで調べてみよう。蔵元や酒販店のウェブサイトでも詳しい解説をしているところがある。

山田穂:やまだぼ、短稈渡船:たんかんわたりぶね――山田錦の母と父

稲穂
右から短稈渡船(渡船2号)、山田錦、山田穂。山田錦がちょうど中間の長さであることがわかるだろうか?試しに測ってみたところ、根を除いた茎から稲穂の先まで、それぞれ115㎝、125㎝、150㎝であった。(稲穂提供:平孝酒造)

酒米の優等生、山田錦の親にあたる品種が、山田穂(母)と短稈渡船(父/渡船2号ともいう)だ。上の写真を見るとわかるが山田穂は背が高く米粒も大きいため台風などで倒れやすい。それに背丈の短い短稈渡船を掛け合わせ、倒れにくい性質をもたせようと開発されたのが山田錦というわけだ。米の背丈だけを比べてみても人工交配による品種改良の狙いがわかりやすい。

副島先生
稲の品種改良は、大きくは寒冷に強い“早生化”と風に強く倒れにくい“耐倒伏性” を目指して行なわれてきました。ほかにも多収性や耐病性、酒造りに重要な心白(=米の中心の白い部分。タンパク質がゆるく結合している)の発現率など、多様な要素を取り入れて今日もさまざまな取り組みが行なわれています。
酒瓶
田酒 山田穂 短稈渡船セット
造り:純米大吟醸/蔵元:西田酒造(青森県)/価格:セット11000円(税込み)
青森市内唯一の酒蔵として田酒を世に送り出す。まさに田んぼの酒を体現し、造る酒はすべて純米という取り組みを早くから始めた蔵として日本酒業界をけん引してきた。
小倉社長
2種の米の味わいから子である山田錦の味を想像するのは正直難しいが、誰もが知る山田錦の父母世代の酒の飲み比べにはロマンを感じる。愛好家に楽しんでほしい。



愛山:あいやま――山田錦がおばあちゃん、雄町がおじいちゃん

ルーツは兵庫県とされ、日本酒ビギナーのための酒米講座【前編】で西日本を代表する酒米として紹介した山田錦と雄町を祖父母にもち、民間で育種されてきた品種。山田錦よりも粒が大きく、倒れにくい性質も獲得した優良品種で、近年、普及してきた人気の酒米。心白の大きさから“酒米のダイヤモンド”の異名も。

副島先生
山田錦よりも心白が大きく、米も溶けやすいため雑味が出やすいが、上手につくると独特の香りと雄町以上にふっくらしたボリュームのある味わいになります
酒瓶
播州一献 愛山
造り:山廃純米/蔵元:山陽盃酒造(兵庫県)/価格:1760円(税込み)
昔ながらの味わいのある酒をつくることを掲げ、関西地方では唯一、「明壽蔵(めいじゅぐら)」と名付けた鉱山跡の貯蔵庫に酒を貯蔵。まろやかな酒質に定評がある。
小倉社長
愛山は後からくるボリューム感に雄町とは違う品格がある。この播州一献は山廃造りの野武士的なコクのある味わいと愛山の気品を上手にまとめ上げている。
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