酒米を知れば、日本酒がもっと楽しく!
日本酒ビギナーのための酒米講座【前編】~東西を代表する四つの酒米とは?

日本酒ビギナーのための酒米講座【前編】~東西を代表する四つの酒米とは?

五百万石:ごひゃくまんごく――東日本で元気に育つ

稲穂

酒処、新潟で1957年に栽培奨励品種になって以来2000年まで作付け面積第1位をキープした多収量品種。全国的に栽培される。心白が大きく、酒が造りやすいと蔵元からの評価も高い。淡麗の酒に向く。

副島先生
寒冷地でも育つため、東日本の代表品種となりました。味わいはやや硬いイメージで、その分スッキリとした後味の酒になります。
酒瓶
惣誉 純米大吟醸 生
造り:純米大吟醸/蔵元:惣誉酒造(栃木県)/価格:1770円(税込み)
造った酒の9割が地元栃木県内で消費される地元密着型の蔵。この純米大吟醸も県産の五百万石を100%使用している。気品を感じさせる味に定評がある。
小倉社長
山田錦のグラマラスとは反対のシャープな味わい。一口目からアフターまで統一感のあるきれいな酸が伸びていくのが惣誉の持ち味。余韻が細く長く続き、極めて上品。
酒瓶
会津娘 無為信
造り:特別純米 有機農畜産物100%/蔵元:高橋庄作酒造店(福島県)/価格:1980円(税込み)
“土産土法の酒造り”を目指し、地元農家との協業や自らも米づくりに取り組む蔵。無為信は農薬と化学肥料を用いない有機栽培の五百万石を使用した逸品。
小倉社長
福島は五百万石の名産地で各蔵元のレベルも高い。しっかりしたきれいな味わいかつ、香味とのバランスもいい。アフターに苦味を感じさせるのが会津娘らしい。



美山錦:みやまにしき――寒冷地の救世主

長野県生まれの品種で、寒冷地に強いことから山間の土地や東北地方で広く栽培されるようになった。作付け面積は第3位。南方に起源をもつ稲は寒冷地でも育つように品種改良されてきた経緯がある。美山錦はその好例といえる。

副島先生
山田錦が育たないところでは美山錦を植えるといわれるほど優秀な酒米。五百万石よりもさらに硬質な印象でスパッとキレのいい酒になります。
酒瓶
新政 瑠璃(ラピスラズリ)2019
造り:純米 生酛木桶純米/蔵元:新政酒造(秋田県)/価格:1894円(税込み)
蔵元の佐藤祐輔氏は伝統製法を現代の酒造りに落とし込む手法で業界の旗手となった。酒はすべて県産米を使用し、クリアな味わいに定評がある。
小倉社長
生酛らしいミルキーな印象がチャーミング。美山錦のキレの良さが好相性。アルコール度数が低めでも味の骨格がぶれないのが、造りに定評のある新政らしい。
酒瓶
MIYASAKA
造り:純米吟醸 中取り/蔵元:宮坂醸造(長野県)価格:1716円(税込み)
350年以上続く信州を代表する伝統蔵で、赤穂浪士の一人もその酒を飲んだと伝えられる。銘酒・真澄で知られ、穏やかかつキレのよい味わいで全国的な人気に。
小倉社長
酒のタッチが優しくて実にいい。美山錦らしい、米を溶かしたミルキーさも感じられる。長野の美しい水と美山錦が響きあう。まさに風景が思い浮かぶ故郷の味わい。

酒米は、寒い地域と温かい地域で育つ品種が違う!

たんぼ
美しい山田錦の田んぼ。後世に残したい景色だ。

上記で紹介した四つの品種。実は大きく二つのグループに大別できる。それが晩生(おくて)と早生(わせ)だ。西日本は温暖なので成熟に時間をかけて大粒の米をつくる晩生品種の栽培が可能である。一方、寒冷な東日本では寒くなる前に収穫できるように、早く成熟する生品種が中心となった。

山田錦や雄町といった晩生品種は米粒が大きく、味もしっかりした酒になる。早生品種の五百万石と美山錦はその反対に粒が小さく、スッキリした淡麗の酒になる。酒の味に地域性があるのも米の品種によるところが大きい。

とはいえ、酒米は玄米の状態で流通させることができるため、たとえば東北地方の蔵でもより優れた酒質を求めて山田錦を使うことも多々ある。その一方、県産米を重視し、あえて山田錦を使わない蔵もある。米の選び方からも蔵元が造る酒の方向性が見えてくるのもおもしろい。

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協力していただいた人と店

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小倉秀一(おぐら・しゅういち)

小倉秀一(おぐら・しゅういち)

「いまでや」代表取締役社長。全国の地酒や本格焼酎、ワインなど美酒をそろえる。酒の輸出にも力を入れている。

IMADEYA本店
【住所】千葉市中央区仁戸名町714‐4
【電話番号】043‐264‐1439
【営業時間】11:00~19:00
【定休日】水曜(毎月最終週の水曜は通常営業)
※他、千葉エキナカ店、GINZA SIX店がある。定休日、営業時間などは施設に準ず。

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副島顕子(そえじま・あきこ)

副島顕子(そえじま・あきこ)

熊本大学大学院先端科学研究部教授。専門は植物系統分類学。趣味で日本酒指導師範などの資格も取得する酒好き。著書に『酒米ハンドブック』(文一総合出版)がある。

文:深井戸 月 写真:相澤 正

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