酒米を知れば、日本酒がもっと楽しく!
酒米が醸すドラマチックな余韻|酒屋推薦。米の味がする日本酒①

酒米が醸すドラマチックな余韻|酒屋推薦。米の味がする日本酒①

日本酒にとって米はなくてはならない存在。だけど、米が酒に与える味わいってなんだろう。田んぼから飲み手まで続く日本酒リレー、最後の担い手である酒販店が日本酒と米の関係を語ります。1回目は、「住吉酒販」が「田中六五」「松の司」「風の森」「酉与右衛門」の4種をピックアップ。

酒米の余韻と造りの味わい

美味しい日本酒を飲んだとき、余韻に浸ってぼーっとしてしまうことがある。

穏やかな香りと、口に含んだときのゆるゆるとした甘味。
大人になって覚えた美味しさは、なぜか笑うより黙るものが多い。
なんとも言えない日本酒のあの余韻はどこから訪れるんだろうと、ずっと疑問に思っていた。それに答えてくれたのが福岡県で「住吉酒販」を営む庄島健泰さん。

「あるとき気づいたんですが、酒米による味わいの違いは酒の余韻に最も表れるんです。口に含んだときの最初の香り、酸味、苦味などには造りの方向性や技術を感じます。しかし、ドラマチックな味わいの酒は技術だけではない。必ずその余韻に酒米のポテンシャルを感じさせてくれるものです」

庄島健泰さん
酒屋業五代目となる庄島健泰さん。酒販店の立場から偉大な自然と人の叡智が生む、食の豊かさを発信している。
住吉酒販
「住吉酒販」が掲げるコンセプトは「Field-to-Table 土から食卓へ」。豊かな自然と誠実な生産者が造る美味しさを届けたいという思いが込められている。

日本酒の余韻は、酒米がつくる?
そう聞いて初めて、日本酒の原料に興味が湧いてきた。

酒米の品種や育った気候風土によって、味わいにどんな差が出るんだろう。
庄島さん、酒米の余韻が印象的な日本酒を教えてくれませんか?
「もちろんです! 米の品種の違いや育つ環境が味わいから感じられる日本酒を選んでみました。造りが醸す風味と併せて感じてみてください」

上質なカジュアル! 定番酒のど真ん中

田中六五
田中六五(たなかろくじゅうご)糸島産山田錦純米 新酒生酒
使用米:山田錦/造り:純米酒/蔵元:白糸酒造/価格:1584円(税込み)

――シンプルで潔いラベルですね。どんな味わいなんですか?

ほんのり酸味を感じた後に、だんだんと米の旨味が増していきます。人の好みも食との相性も選ばない日本酒ですね。服でたとえると、お気に入りの黒いカーディガンみたいな感じかな(笑)。どんなときでも「田中六五」を選んでおけば間違いないです。


――原料に使われているのは“山田錦”という酒米ですね。どういった特徴があるのでしょうか。

上手な人が造った“山田錦”の酒には、共通して品の良い余韻が出ますよね。濃縮感のある膨らみも感じます。“雄町”という酒米と並んで、とてもわかりやすい特徴をもった二大巨頭のひとつです。

日本酒はこうあってほしい! と思える味。

松の司(まつのつかさ)
松の司(まつのつかさ)純米大吟醸 AZOLLA50
使用米:山田錦/造り:純米大吟醸/蔵元:松瀬酒造/価格:2640円(税込み)

――「田中六五」と同じく“山田錦”で造られた酒ですが、共通点はあるのでしょうか。

“山田錦”が醸す繊細で上品な甘味がありつつ、旨味が凝縮されたまろやかな味わいです。和の雰囲気が漂うシックで落ち着いた余韻があるので、この酒を飲むときにはちゃんとした和食が食べたくなります。

――「AZOLLA(アゾラ)」にはどんな意味があるのでしょうか。

AZOLLAとは、水草のことです。原料に使っている“山田錦”の畑は農薬と化学肥料の使用を抑えているので、たくさん水草が生えているんです。この酒を飲めば、米の育つ環境が味わいに大きく影響していることが実感できますよ。

まるで未来からやってきたかのような日本酒

風の森
風の森(かぜのもり)ALPHA TYPE-1
使用米:秋津穂/造り:-/蔵元:油長酒造/価格:1265円(税込み)

――ボトルの形が特徴的で、どこかワインのような印象ですね。「風の森」はどんな味わいですか?

佇まいからもわかるとおり、時代の先を行く酒というか、未来の日本酒を飲んでいるような味わいですよ。「日本酒ってこんなに軽くて爽やかなんだ!」と驚くはず。入門者が飲むにはもってこいの酒です。

――原料に使われている“秋津穂”はどんな酒米なんですか?

もともとは食用として親しまれていた飯米の品種なんです。酒米と違って、味わいや余韻に出る影響が穏やかなのが特徴かな。だから、技術力や仕込み水の特徴を目立たせたいときにはぴったり。あえて飯米を使う造り手も増えていますね。

クリーンで力強い酸をもつ唯一無二の日本酒

酉与右衛門(よえもん)
酉与右衛門(よえもん) 山廃純米 無濾過生原酒
使用米:亀の尾/造り:山廃純米酒/蔵元:川村酒造店/価格:1956円(税込み)

――日本酒では珍しい透明なボトルなんですね。味わいの特徴を教えてください!

「酉与右衛門」の特徴は力強い酸ですね。すごくクリーンな味わいなので、爽快感があります。フレッシュでドライな酸は肉料理と相性抜群。ジンギスカンなんかと合わせるのがお薦めです。

――原料となっているのは“亀の尾”という米。かわいらしい名前ですね。

稲穂の粒から伸びるひげが亀のしっぽに似ていることが由来になっているもとは飯米だった古い品種です。“山田錦”がもつしっとりとした余韻に比べると、カラッとした後味の酒になりますね。「酉与右衛門」の特徴的な酸を、より引き立ててくれていると思います。

酒米を知ると酒の味が変わるということ

庄島さんが教えてくれた、“酒米”と“酒の余韻”の関係を意識しながら4本の日本酒を飲み比べてみた。

酒米の代表“山田錦”で造られた酒に感じたのは、たっぷりとした余韻。飯米の2種類で造った酒は、それぞれ後味のキレが良い印象だった。
前半(口に含んだ味わい)と後半(飲み込んだ後の余韻)に分けて飲むことを意識するだけで、日本酒の楽しみ方がグンと広がることに驚いた。

となると、よく耳にする酒米の品種“雄町”や“五百万石”はどんな余韻になるんだろう? 酒の余韻に注目して、いろんな酒を飲み比べてみよう!
酒米を感じることで、日本酒との付き合い方が一層深く、楽しいものになりそうだ。

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庄島 健泰(しょうじま・たけやす)

1981年福岡市生まれ。高校を卒業した後、東京にある鮮魚店などの飲食店に10年携わる。2009年「住吉酒販有限会社」に入社後、2017年代表取締役就任。「酒に笑う人生」をテーマに、プロの方から一般の方まで日本酒の魅力を伝えるべく食と酒のイベントなども手がける。

住吉酒販
【住所】福岡県福岡市博多区住吉3-8-27
【電話番号】092-281-3815
【営業時間】9:00〜18:30
【定休日】日曜
※他、博多駅店(JR博多駅内)、福岡・六本松421店(蔦屋書店内)、東京・ミッドタウン日比谷店も。定休日、営業時間などは住吉酒販サイトおよび各店舗までお問い合わせください。

文:山田和正 撮影:kuma*/住吉酒販