五島列島近海のアオリイカは、スルメイカやケンサキイカとは、アミノ酸の組成が違うため、苦味やスルメ臭のない、ピュアで甘い味に仕上がる。
江戸時代に著された本草綱目啓蒙で、五島列島のアオリイカのスルメが絶賛されている。
肥前ノ五島ヨリイヅルモノハ形大ニシテ上品トス。五島スルメト云。コレハアヲリ烏賊ヲ用ユト云。形円ニシテ肉アツク味佳ナリ
これだけの賛辞を贈られるスルメは他にはないだろう。
シロイカ型は雄が最大3kg、雌は最大で1.5kg程度。アカイカ型は雄も雌も大型化し、最大で5kgにもなる。
アオリイカの一生は1年だから、産卵近くなるほど大型だが、卵や白子に栄養が使われる為、身の質は子イカの方がずっと良い。五島列島のアオリイカだから、子イカでも立派なスルメを作ることができる。何故ならDNAが違うからだ。
活きているアオリイカをさばいてスルメを仕込む。一枚一枚を職人技でスルメに仕上げる。原則、天日干しだが、天候が良くない時は冷風乾燥機を併用し、最高の鮮度のまま、透明感のある、美しく白いスルメに生まれ変わる。
アオリイカは1年で大きく成長するが、基本的に生きた甲殻類や魚しか食べない。つまり、アオリイカ自身が最高の鮮度の食事を摂り、かつ、うまみが強いものを食べている。アオリイカが大きいこと、即ち、競争に勝ち、上質な餌を食べてきた証だ。
遊離アミノ酸の組成をケンサキイカやスルメイカと比べると、アオリイカは大きく違う。特に苦味系のアミノ酸がほとんど含まれていない上に、グルタミン酸のような濃厚なうまみも少ない。雑味とスルメ臭がほとんどしないのは、鮮度抜群なだけでなく、そもそものアオリイカと他のイカは違うのである。アオリイカのスルメの60%はたんぱく質。生きている時の20%〜25%の重量に凝縮したアミノ酸の塊は、唯一無二のスルメだ。
文:(株)食文化 萩原章史