アンコウと並ぶほど旨いというその怪魚は、比較的安価であっさりとしていて、アンコウより好まれることもあるという。グロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。
めでたい名である。七福神の布袋様にそっくりだからそう呼ばれる。体は卵型で頭が丸く、腹がでっぷりと膨らんでいる。皮目はブヨブヨしていてぬめりがたっぷりとまとわりついている。淡褐色の体表には黒褐色の斑紋と黒点がたくさんついている。背ビレがなく、腹には円形の吸盤があって全長は40cmに達する。
主産地は北海道で、「ゴッコ」と呼ばれる。理由はわからないが、これもなかなか愛らしくて適切な呼び名である。へんてこな魚であるが、北海道・函館市や小樽市の一般向けの市場の店頭にはごく当たり前のように並んでいる。見慣れない奇怪なフォルムなので観光客がこの魚を見てギョッと驚く様子は珍しくない。
ふだんは沖合の深場に生息するが、12月から4月にかけては沿岸の浅場にやってきて産卵するため、この時期に刺し網や定置網で漁獲される。最盛期は2~3月で、この時期が食べ頃となる。
北海道ではアンコウと並び称されるほど味の評価は高い。しかも比較的安価だ。食べ方もアンコウに相通じていて、多くは鍋料理にされる。その鍋料理は「ゴッコ汁」と呼ばれ、北海道の人はイクラ大の大きさのホテイウオの卵を加えたものをことのほか好んでいる。身はやわらかくて歯切れがよく、鍋はアンコウ鍋に比べるとあっさりしているが、こちらのほうを好む人も少なくない。
食べ終わった後の鍋は雑炊にしてハフハフするべきだ。フグ雑炊に勝るとも劣らない。なお、ホテイウオの肝も、アン肝に匹敵するほどうまい。フグやアンコウと肩を並べるほどうまいのに財布にやさしい。さすが布袋様だ。ただ、調理の際は事前にかならず表面に熱湯をかけて体表のぬめりを取り除くこと。これを省くと料理全体が生臭くなるのでお気をつけて。
日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。
文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏