今回のお題“パルフェ”には、一体どんな真実が隠されているのでしょうか?私達が一度は食べたことのある、あんな料理やこんな料理には、隠された物語があることをご存知でしょうか?“知る”ことで、同じ料理が明日からちょっと美味しくなる連載をお届けします。
大正時代の『西洋料理法大全』という本の中には、「パーフェート」と書かれた料理のレシピが載っている。要約すると「フリージングする間にかき回さなくていいのでとても作りやすい。卵黄をシロップとともに濃いなめらかなクリームに炊き上げ、ホイップクリームと合わせて型に入れて冷やす」とある。
つまりこれ、アイスクリームのようなものである。
宇野弥太郎という料理人が書いたもので、彼は明治時代の外交官、小村寿太郎の専属料理人としてヨーロッパ各地に滞在し、料理を学んできたキャリアを持つ人だ。そんなシェフ宇野が呼んだ「パーフェート」とはフランス語のparfaitで、「パルフェ」と読む。「完全な」という意味から名付けられた。これは英語のパーフェクト(perfect)である。
先の本にはチョコレートパーフェートやフルーツパーフェートのほか胡桃やいろいろなフルーツに粉砂糖をまぶしてアイスクリームに入れたパーフェートもあった。いま見てもおいしそうで、当時流行していたハイカラなカフェやパーラーの関係者ならほっとかないだろう。その本を見たからではないだろうが、パーフェートが町中にあふれ、スイーツ女子または男子に支持されて時代とともにどんどん進化して、今の日本のパフェとなった。
背の高い透明なグラスに、アイスクリームや生クリームをフレークやフルーツソースと層にして盛り込み、プリンをのせたりフルーツをのせたり、チョコレートを添えたり。見た目も美しく盛りだくさん。あなたはつぶやくだろう。「うん、完璧(パーフェクト)!」。
ただこの感覚を持ってパリに飛び、メニューに「perfait(パルフェ)」を見つけて頼むと、肩透かしにあう確率が高い。エッフェル塔のように盛りつけられた日本風のスイーツパフェを期待するかもしれないが、そこに運ばれるものの可能性は大きく二つである。一つはテリーヌのような形に盛られたバニラアイスクリーム。そう、冒頭でご紹介した本場仕込みのパーフェートで、卵とクリームでとても濃厚に仕上げてある。
もう一つは薄切りのパンかブリオッシュが添えられた茶色っぽいものが運ばれてくること。これはフォアグラのペーストだ。メニューをよく見ると、parfaitに続けてde foie grasと書いてあるはずだ。つまりパルフェ・ド・フォアグラで、75%以上のフォアグラを使った、かなりリッチな一品である。
フランスの美食家たちは料理でもデザートでも、素晴らしきものにはパルフェの称号を与えた。日本と比べて見た目の派手さは抑え気味。でもどちらも一口食べればあなたもやっぱりつぶやくだろう。「セ・パルフェ!(うん、パーフェクト)」。
興味を持つとがむしゃらに取材をしたがる食ライター。銀座「資生堂パーラー」の季節のパフェは文句なしのパーフェクトだが、缶詰のさくらんぼやみかんが似合う純喫茶系パフェにも心が揺れる。
文:土田美登世 写真:加藤新作 料理:田中優子
※この記事はdancyu2018年5月号に掲載したものです。