スペシャリテとまかない~素敵なレストランの美味しい話~
「蕎麦や もりいろ」のまかない"クレソンのポテトサラダのコロッケ"|スペシャリテとまかない⑥後編

「蕎麦や もりいろ」のまかない"クレソンのポテトサラダのコロッケ"|スペシャリテとまかない⑥後編

料理人やスタッフの元気の源まかない。東京・大森町にある蕎麦屋「もりいろ」のまかないは、お店で出しているつまみを美味しく食べるレシピでした。まかないの調理場を覗き見します。

本日のまかないは“クレソンのポテトサラダのコロッケ”

クレソンのポテトサラダのコロッケ

もう長いことメニューに載っている、「もりいろ」の人気の品のひとつに「クレソンのポテトサラダ」がある。自家製ベーコンをカリカリに炒め、フライパンの火を止める。ベーコンから出た油でさっとクレソンを和えたら、蒸したジャガイモと卵黄、塩を加えて混ぜて出来上がり。
マヨネーズを使わないのが特徴で、酢が入らないので酸味はないが、そのアクセントの代わりとなるのがクレソンの苦味。皿に盛ったらオリーブオイルを垂らして客の前へ。まったりと平坦になりがちなポテトサラダが、クレソンとオリーブオイルによって立体感のある味わいとなっている。全体的にはあっさり味で、軽やかに食べられるポテトサラダだ。
「そのポテトサラダが余った時、まかないで作るのがこのコロッケなんです」
と店主の土屋匡史さん。

出来上がったポテトサラダさえあれば、難しいことはないという。俵型に丸めたら、通常のコロッケ同様、小麦粉、卵液、パン粉と順番につけ、まかない用として使っている小ぶりの中華鍋に油を熱して揚げている。

「コツとしては、丸める時に空気を抜くこと、それから卵液には少し水を混ぜること。このほうがポテトサラダにしっかり卵液が馴染むんです」

油の温度をみるときに、少量の小麦粉やパン粉を入れてその散り具合を見る人は多いと思うが、土屋さんは、営業で使う天ぷら粉を用いる。
「こっちの方が使い慣れているので、温度がすぐ分かるんです」
ちょっと沈んでパッと散るくらいが適温の170℃だ。

コロッケと白いご飯が今日のまかない。大抵は土屋さんが作り、手伝いのスタッフと2人で昼の営業後に食べる。小さな蕎麦をつけることもある。
「スタッフが“蕎麦打ちの練習をしたい”というときは、練習を兼ねて打ってもらい、それを食べます。パスタなんかもよく作りますね。今の時期、牡蠣のペーストを作っているのですが、その時に出る牡蠣の切れ端や、おひたしのきのこなどを具にして、和風味に。これがなかなか美味しいんです」

かつての修業先、大所帯の「小松庵」にいた頃は、特に最初の1、2年、みんなのまかないをつくることが多かったと懐かしむ。土屋さんは大学卒業後に「小松庵」に入ったので、同期のほとんどは4歳下。同い年の人は4年先輩ということになる。
「歳なんて関係ない世界です。でも、同期も先輩にも、みんなによくしてもらったと思います。食べ盛りの十数人分のまかないですから、すごい量になりますね。作るのは結構大変です。決められた予算をやりくりしてやっていたのを思い出すなあ。煮物用の二番だしが余るので、それを使ってカレー蕎麦を作ったり、麻婆豆腐のような中華にも挑戦したりしていましたね」

大勢でガヤガヤ食べるまかないも楽しいが、今は、予約客のことや蕎麦のことなどを話しながら、スタッフと二人、静かに食べている。そんな安定した空気が、落ち着いた居心地のいい店内を作っているような気がする。

食べるスタッフ

“クレソンのポテトサラダのコロッケ”のつくり方

マヨネーズを使わない、「もりいろ」の優しいポテトサラダをコロッケにします!
ポテトサラダをパンパンと左右の手の間を行き来させ、空気を抜くようにして楕円形に丸める。
全体に小麦粉をまぶす。
卵を割り、少量の水を入れて溶いた卵液に絡める。
パン粉をつける。手で触らず、ボウルをゆすりながらつける。こうすることでふわっと軽い仕上がりになる。
170℃のサラダ油で揚げる。
5分ほどで衣が色づいたら引き上げる。
お皿に盛り、完成。

文:浅妻千映子 写真:青谷慶

店舗情報店舗情報

蕎麦や もりいろ
  • 【住所】東京都大田区大森西5‐10‐8
  • 【電話番号】03‐3761‐6055
  • 【営業時間】11:30~14:30(L.O.) 17:30~20:30(L.O.)売り切れ仕舞い 日曜は昼のみ
  • 【定休日】月曜
  • 【アクセス】京浜急行「大森町駅」より1分
浅妻 千映子

浅妻 千映子 (食ライター)

大学卒業後、3年間のゼネコン勤務ののち、ライターに。雑誌やweb等で活躍。料理研究家としてレシピ開発も。著書に『江戸前握り』『パティシエ世界一』(光文社新書)など、レシピ本に『浅妻千映子キッチン』(ぴあ)、『ほめられレシピ』(主婦と生活社)がある。『東京最高のレストラン』(ぴあ)の審査員。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。