怪魚の食卓
頭から腕が生えている怪魚とは?|怪魚の食卓㉘

頭から腕が生えている怪魚とは?|怪魚の食卓㉘

デビルフィッシュと呼ばれることもあるというその怪魚はやわらかくて美味であるという。見た目がグロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。

よくよく体を観察してみると……「ミズダコ」

日本人はタコをよく食べる。だが世界的にはあまり好かれていないようだ。それはそうだろう。改めてよく見ればかなりグロテスクである。われわれが頭と思っているのは胴であり、卵円形をしている。8本を数える足と呼んでいるところは、実は腕である。ホントの頭は胴と腕の間にあり、そこに目と口がある。つまり頭から腕がのびているのだ。口はその形がカラスやトンビのくちばしに似ているということで、カラストンビと呼ばれることもある。各腕には吸盤が並び、腕と腕の間には膜がある。体の色は茶褐色で骨がなくてぐにゃぐにゃしている。

ところで会社の利益がないのに無理やり株主に配当することをタコ配(タコ配当)という。飢えたタコが自分の足を食べると俗に思われていることからきている。想像するとかなり気持ち悪い。こんな姿形やイメージから国によってはタコを「Devil Fish(悪魔の魚)」と呼んで避けているが、イタリアやスペイン、ギリシャ、東南アジア諸国、韓国などでは食べられている。

ひと口にタコといっても世界中に200種類以上いる。日本でよく食べられるのはマダコだが、日本近海には30種類以上が棲息している。そのなかでミズダコはそのサイズで異彩を放つ。全長なんと3m、重さは20kgにも達するのだ。マダコの5倍はある。

マダコに比べると水っぽいといわれることもあるが、そんなことはない。どのように料理してもやわらかくて、やわらかいなかにも絶妙な食感がある。ミズダコのしゃぶしゃぶは昨今人気だ。産地ではミズダコの胴のうまさを絶賛し、刺身や酒粕漬け、風干しなどにしてその滋味を味わっている。刺身は胴の部分をゆでで味わう。生きているうちにゆでたものがうまい。しなやかな弾力があり、格別のかみ心地である。しっとりとした甘さもさっぱりとしたうま味も好ましい。うっすらと身に染まるピンク色も美しく、食べ過ぎてしまう条件が揃っている。

ゆでだこ(胴)の刺身
①ミズダコのゆでた胴の部分を手に入れる。
②皮を取り除き、厚さ4mmほどの食べやすい大きさに切る。
③皿に盛り、わさび醤油を添える。
ゆでだこ(胴)の刺身

解説

野村祐三

日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。

文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏