明日、どこに食べに行こう?
定食が最高!「にし邑」|個性が光る東京のとんかつ④

定食が最高!「にし邑」|個性が光る東京のとんかつ④

昼も夜も、大満足のとんかつ定食を楽しめる銀座の良心のようなとんかつ屋がある……。午後に備えるランチタイムに、仕事上がりの労いに、いいことがあったときのご褒美に。旨いとんかつ店を知っていれば、人生は最高になる。

ご飯も豚汁もキャベツも最高!

硬めに炊いた茨城産コシヒカリ、芯から温まる酒粕入りの豚汁、山盛りキャベツに揚げたての厚切りとんかつ。さて、今日は何から食べよう。

上ロースかつ膳
「上ロースかつ膳」1,500円(ご飯、豚汁、漬物付き)。一枚でロース、霜降り、赤身のさまざまな味わいが楽しめる上ロースは、店のイチ押しメニュー。ソースもいいが、上ロースは断面に岩塩をふって召し上がれ。溶け出る肉汁と脂身の旨味が増し、極上のスープのよう!

主食から副菜まですべてが行き届いた「にし邑」の定食は、昼夜変わらぬ価格と、夜になれば晩酌もできる使い勝手のよさで、銀座で働く大勢の心と胃袋を鷲掴みにしてきた。
「父が会社員だった頃、おかずはおいしいのにご飯や味噌汁が残念だなと思う定食が多かったそうで、“この二つが旨ければお客さんは来てくれる”と一念発起して始めたのがこの店」と、二代目で夜営業を担当する西村真一さん。「だからうちの店の主役はご飯と豚汁。とんかつは副菜なんですよ」。

店主の西村真一さんと妻の依子さん
「揚げるとき音がしないんです」と店主の西村真一さんと妻の依子さん。

その言葉が冗談なのは、食べてみればわかる。余計な筋切りをせずに脂と肉の旨味を残し、生パン粉とサラダ油で揚げるとんかつは、揚げ物というより余熱で火を通したローストポークのようなジューシーさ。昼間に父・義郎さんが揚げるしっかり火入れされたものも美味だが、夜だけのこのレアバージョン、通称”ピンクのカツ”も見事。同じ肉、油、衣を使いながら、全く異なるとんかつを目指す父子だが、「自分が旨いと思ったものしか出せない」という思いは共通している。昼もいいし夜もいい。なんて幸せな店だろう。

ここに技あり!

とんかつを揚げる様子
「にし邑」の揚げ油の音は驚くほど静か。その秘密は、肉に対して余計な筋切りをしないことで繊維の中に空気層ができるのを防ぎ、肉のドリップが油に流れ出にくくしているため。
店内
1999年開店。昼間は父・義郎さんの、夜は真一さんのとんかつが味わえる。

店舗情報店舗情報

にし邑
  • 【住所】東京都中央区銀座3‐12‐6
  • 【電話番号】03‐5565‐2941
  • 【営業時間】11:00~14:30(L.O.) 17:30~21:00(L.O.)
  • 【定休日】土曜、日曜、祝日
  • 【アクセス】東京メトロほか「東銀座駅」より5分

文:白井いち恵 写真:長谷川潤

※この記事の内容はdancyu2018年10月号に掲載したものです。

白井 いち恵

白井 いち恵 (ライター・編集者)

新潟生まれ、千葉育ち。おもに街と食(ときどきバス)に関する記事を書いています。定まった仕事着がないわが身を省みて、食の世界も含めたプロたちのユニフォームに敬意と憧れを抱くこの頃。大抵、紺色を着ています。