肉汁がはじけるロースのとんかつが旨い東京・両国にある「はせ川」。ロースを使ったとんかつだけでも8種類もあるというロース愛溢れるお店です。午後に備えるランチタイムに、仕事上がりの労いに、いいことがあったときのご褒美に。旨いとんかつ店を知っていれば、人生は最高になる。
さて、問題です。「イクラ、ウイスキーボンボン、粗挽きソーセージ」。この三つに共通することは何でしょう?答えは「食感」。外側の膜が弾けた瞬間、中から旨い汁がほとばしる。「はせ川」の“極上ロースかつ”も同様に、ザクッと噛むとプツンと膜が弾け、ブシュッと脂があふれ出る。擬音だらけで恐縮だが、初めて食べたときに浮かんだ言葉が「極上の脂のカプセル」ゆえ、勘弁してほしい。
このとんかつを揚げる渡邉富夫さんは、元サーファー。波乗りに通っていた千葉県九十九里の専門店で食べたロースかつのおいしさに衝撃を受け、とんかつ職人になることを決意する。豚肉がもたらした人生のビッグウエーブ。すぐに弟子入りし、来る日も来る日もロースを揚げまくった。
渡邉さんが心底惚れたのが平牧バーク三元豚。豚肉好きなら知らない人はいないブランド豚だ。なかでも栃木県日光市の平牧の生産者が丹精込めて育て、群馬県高崎市の食肉加工業者が目利きした肉のみを使用する。「特に高崎の業者さんは、私のために選りすぐりの肉を送ってくださるんです」。渡邉さんは極上のロースを愛おしそうに見つめながら言う。そう、あのカプセルの中にはお肉に関わるすべての人の「愛」もギュッと詰まっているのだ。
文:佐々木香織 写真:本野克佳
※この記事の内容はdancyu2018年10月号に掲載したものです。