門前仲町にある「ブカ・マッシモ」炭火焼きを主役にしたお店です。下町らしく肩ひじ張らずに和やかな雰囲気の中で、素朴だけど美味しいトスカーナ料理を楽しめます。
かつて深川と呼ばれた門前仲町で、大沼清敬シェフは肉を焼く。
「ピッツァもパスタもつくってきたけど気づけば肉を焼いてばかりいました」「ブカ・マッシモ」は、彼が一番自信のある炭火焼きを主役にした店。元ガレージの板壁や石床を生かした空間では、客席から見上げる厨房が舞台だ。
艶やかな肉の巨塊をドンとまな板にのせ、シェフが手にするのは糸鋸である。分厚く切り分け、今度は無骨な煉瓦の焼き台にのせる。この状況で目の前にウォークインセラーがあるのだから、そりゃあボトルでいくだろう。
朦々と上がる煙にワインが加速するのは大人たち。キラキラの目で駆け寄るのは子供たち。「子供連れがダメな食堂はない」と、トスカーナの素朴な料理が並ぶテーブルは、週末ともなれば家族の賑やかな食卓に変わる。
メニューを見ずに「今日、何?」から始まるイタリア人みたいなお客もいる。いつも突然のお客もいる。「次回から予約を」とお願いすると、「深川の人間に予約させるのか」と笑われた。それでもお願いするのは「断りたくない」からだ。彼らに胸を張って語れる食材を選び、彼らの体を思いやって料理する、祭りと人情の町のトラットリア。今日もシェフは肉を焼き、旨い煙の立つところに人は集まる。
文:井川 直子 写真:海老原 俊之
※この記事の内容はdancyu2017年11月号に掲載したものです。