広尾の「ボッテガ」は、経験豊かなシェフによる重厚な味わいのイタリアンを楽しめます。夜中にふとお腹がすいたときにもいける、懐の深い店です。そして、どこか後をひく軽妙さが通いたくなる店間違いなし!
オナカはいつも気まぐれだ。まだ日の高い時間や深夜。時を選ばず、容赦なく腹は減る。そういう突然の腹ぺこは、田舎から連絡なしに友人が来たときのように、手厚くもてなしたい。しかし、そう都合よく、良き店は開いていない……。と思っていたら、広尾にある「ボッテガ」は違った。開店は夕方5時。ラストオーダーは夜中の0時である。勤勉かつ至便。
「ランチは営業しない代わりに、夜中までしっかりやろうと思いまして」
オーナーシェフの笹川尚平さんは、一見、高僧。近寄り難い。確かにひたむき。雑誌でイタリア料理に出会い、25歳のとき、彼の地へ。帰国後、ずっと名リストランテを指揮した。そして、この店の名は“工房”を意味する。ストイック。だが、話せばすこぶる軽妙。
「以前は大きな店にいたのでお客様と話せず、それは無口なものでした」
まだ慣れぬカウンター越しに照れながら冗談を言う。真面目で愉快、だ。この二面性が、料理にもあって、重厚なのに後をひく軽妙さがある。たとえば、トリッパ。コク深いのに爽快。手打ちのパスタは、オーダーを受けてから、できる限り打ちたてを出す。そんな“真面目な愉快”はクセになる。だから今日もここを訪れる。もちろん、不意に腹が減ったフリをして。
文:加藤 ジャンプ 写真:大山 裕平
※この記事の内容はdancyu2017年11月号に掲載したものです。