茅場町にある老舗割烹「辰巳」では、他ではお目にかからないアジフライがあります。和食の真髄を詰め込んだアジフライをぜひ味わってみてください。
「アジフライは正三角形に近いほど旨い」という冗談仮説のもと、いろいろ食べ歩いた時期があったのだが、割烹に足が向いたことはない。
昼の定食とはいえ、割烹といえば和食、揚げものは天ぷらだろう。おそるおそる店主に尋ねた。店主は笑い、「邪道だろ、ですよね」。実際30年ほど前、お客さんの要望で始めた頃は、そんな感じだった。評判がよく今ではアジと帆立のフライだけ夜も出している。
ただし、昭和26年創業当時の建物も大事に使っている老舗割烹の矜持がある。和食の真髄は素材の味だ。市場で刺身にできるアジを仕入れ、おろして軽く塩をふり一晩冷蔵庫でねかせる。身が締まり凝縮された新鮮な旨味を、衣で大切に包む感覚で揚げる。
歯が衣を割った瞬間、旨味の汁があふれ、舌が喜んだ。「欲しがるお客さんが多いんですよ」の話に大いに納得。「辰巳」のアジフライは“正三角形”に近いのであった。
めぬけ(カサゴの類)はぜひ試してほしい(定食900円)。厚い白身に、刺身のような味わいの旨味を残した繊細な仕上がりで、“美味”と言うにふさわしい。
文:エンテツこと遠藤 哲夫 写真:岡本 寿
※この記事の内容はdancyu2019年10月号に掲載したものです。