定食のおかずのテッパンであり、酒肴としても、ビールやレモンサワーなどあらゆるお酒に寄り添う。あぁ、アジフライは素晴らしい!都内でも抜群なアジフライを食べられる店をご紹介します。
門前仲町――。木場に向かって永代通りの右側にはかつて料亭が並び、左側は今も富岡八幡宮の門前町だ。ここに町の人から長らく愛される食堂がある。富岡水産という鮮魚店に併設された店の名は「富水(とみすい)」。茶色の暖簾には、深川の2文字が家紋の横に染め抜かれている。
店内は広い。昼は定食目当てのお客さん、夜は飲む人もやって来る。迎えるのは、笑顔が素敵な女将だ。「築地で仕事を覚えたからね。魚のことなら、うん」と言って頷く。みなまで言うな。任せておきなさい、ということだ。
小さいのなら3尾、それより少し大きいのなら2尾。女将が両手の人差し指と親指の先を合わせた三角形は、名物、アジフライの大きさを示す。
皿にはフライとせん切りキャベツ、レモンスライスにタルタルソースがのる。衣は軽く、サクッと歯ごたえが良く、噛むと鯵の身が口の中でほくほくと躍るようにして、しっかりした質感も感じさせる。小ぶりの鯵だが、身はけっして薄くなく、ぷりっとしている。青魚特有のクセも少なく、爽快と言いたくなるような味わいだ。
もちろん、ビールを飲む。飲まざるを得ない。いやいや、飲まなくてもいい。ご飯を注文して、フライと頬張るのもまた抗いがたい誘惑だ。
店では鯵のほかにサーモンのフライも自慢の品なのだが、刺身や天ぷらの種類も豊富だし、焼いたウルメとかサバの味噌煮とかうな重とか、あれこれ、試したいものが目白押しである。
「深川へ来たばかりの頃は芸者さんも半玉さんもいてね。木場の旦那たちも羽振りが良かったから、それは賑やかだった。でも、今でもね、親子三代で使ってくださるお客さんもいるんです」
そりゃそうだろうな……アジフライを齧りまた納得。こんな店が近所にあれば毎日通うだろうと、頷くばかりだ。
サーモンフライ1,080円も人気。一口食べて、サーモンの身質の良さに驚く。生臭さはまったくなく、脂がのった切り身を軽い衣がふわりと包み込んでいる。
文:大竹 聡 写真:長谷川 潤
※この記事の内容はdancyu2019年10月号に掲載したものです。