浅草にある「ちゃこーる」はフレンチの食材を取り入れた革命的な焼鳥屋「萬鳥」の焼き場を任されていた職人が開いた店。そこではワインやシードルと焼鳥の相性の良さを実感できます。
一口で、あのざわめきが甦った。2000年から13年間、浅草にあった革命的な焼鳥屋「萬鳥(ばんちょう)」。
名フレンチ「ラ・シェーブル(現ガンゲット・ラ・シェーブル)」の田口昌徳シェフがつくったその店は、仏産ブレス鶏、バルバリー鴨、うずらなど、フレンチでなじみの食材を塩と炭火で焼き上げた。同業シェフや他の焼鳥店主らは「ずるい」「反則だ」とつぶやきつつも、皆楽しそうに通った。合わせたのはワイン。今でこそ当たり前だけど、20年前はその手があったかと誰もが目から鱗、ワインファンは狂喜。焼鳥とワインというこなれ感満載の店は、陽気で活気にあふれていた。
その心臓部である焼き場を13年間任されたのが、高橋久子さん、通称チャコちゃん。いつもガラス窓の向こうの焼き場で、手拭いをきりっと頭に巻いていた凛々しい姿を、私ははっきり覚えている。焼鳥は、鮨同様に職人仕事だ。鶏の捌き方から焼き加減まで、あの人じゃなきゃ出せない味がある。だから、高橋さんの独立で「萬鳥」が終わりを迎えたのは、極めて合点がいく。
果たして数カ月後、観音裏の静かな住宅街の角っこに、萬鳥イズム薫る「ちゃこーる」が生まれた。
看板は、「萬鳥」からの常連も愛するうずらの半身焼き。「10人中10人が喜んでくれる」というチャコちゃんのおスミ付きだ(ちゃこーるだけにね)。
串物の鶏は、伊豆の天城軍鶏。身質がしっかり、味も香りもぎゅっと濃く、部位ごとの違いを食べ比べるのにもってこい。野菜メニューも驚き満載で、谷中生姜の豚肉巻きは、生姜のほっくり感と独特の辛味が、甘めのタレを塗った豚肉と笑っちゃうぐらいに合う。“ばくだんトマト”は、くりぬいた中にバジルペーストとチーズを忍ばせ、豚バラ肉を巻いて焼いたオリジナルな逸品。ワインはフランス中心、仏産辛口シードルもある(そう、シードルと焼鳥の相性の良さを、ここで実感できます)。
ポップな緑の壁にゆったり広いカウンター、その向こうに、あの喧騒を駆け抜けた高橋さんの美味しそうな笑顔。さ、冬は軍鶏鍋を予約しよう。
「萬鳥」時代からの人気メニュー、うずらの半身焼き750円。うずらの味の濃さ、食感に驚き、虜になる人多数。メニューを開くと、右下“塊肉”の項目にある。
文:馬田草織 写真:本野克佳
※この記事の内容はdancyu2019年11月号に掲載したものです。