世界中に400を超える種類が生息するというその怪魚。エイヒレで広く食べられているが、それより美味しい調理法があるという。見た目がグロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。
エイが泳ぐ姿を下からのぞくと、まるで宇宙人である。扁平で胸ビレが体とつながっていて、大きく横に張り出している。ひし形に近い。口と鼻孔は体の下についているが、目と噴水口は背面にある。尾は細長く伸びている。動きは優雅で、体を上下に波打たせるようにしてゆったりと泳ぐ。多くの方は水族館でマンタを見てその迫力に圧倒されたことがあるだろう。あの人気者はエイの仲間で別名「イトマキエイ」といい、横幅8メートル、体重3トンに達する大型のエイなのだ。エイの種類は多く、世界に400種類以上いて日本近海には70種あまりが分布する。
北海道の人はエイを「カスベ」と呼び、スーパーマーケットでも「メガネカスベ」などといった種類のエイのヒレ部分が切り身になってよく並んでいる。このほかにも「ガンギエイ」「ツマリカスベ」など食用にされるエイの種類は少なくないが、特に美味とされるのは「アカエイ」だ。もっともアカエイの仲間には尾の付け根に毒のトゲを持つものもあり、漁師さんたちも取り扱いには細心の注意を要するのだそうだ。
エイはヒレを食べる。もっともなじみがあるのは居酒屋のメニューでよく見る「エイヒレ」だろう。これはエイのヒレを乾燥させて作る。ただエイを食べる地域では煮つけのほうがポピュラーだ。淡泊さのなかにもほどよいうま味があり、この絶妙なバランスは食欲が減退する夏に食べるといい。何よりもヒレの軟骨を噛むときのジョリジョリという快音とともに広がる快音と心地よさはほかでまずは味わえない。エイにはコラーゲンが多く、煮つけをひと晩冷蔵庫に入れておくと、煮こごりがたっぷりできる。このおいしさもエイ料理の魅力のひとつだ。
エイの匂いがきついという人もいるが、これは死後に筋肉中の尿素が分解されてアンモニア臭が出るためだ。エイは新鮮なものに限る。
日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。
文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏