東京・池ノ上にある「ピエール」には、“普通”のシュークリームがあります。みんなにとっての普通を目指すことは、実はなかなか難しいものです。でもここには、誰もがホッとする美味しいシュークリームがあるのです。
今から十数年前のある日のこと。常連客から「もっと普通のシュークリームをつくって」と口々に言われた。当時つくっていたのは、硬めの生地で生クリームのみを挟み、上をアーモンドで飾ったもの。店主・鈴木徹さんが修業先のフランスでよく見た、本場ではオーソドックスなレシピだ。
池ノ上は住宅地で、長く住んでいる年配の方が多い。「その年代の日本人にとっての“普通”とは、柔らかい生地にカスタードが入っているものかな、と考えたんです」。そうして定着したのが、皮はフカッと軽く、クリームの甘さはキレがいい、素朴でホッとする味だ。
「普通になったね」の声こそ聞こえないが、みんな満足そうに、おやつ用、あるいは手土産用にとまとめ買いをしていくようになった。これがきっと、この街が愛する“普通”の正解なのである。
文:吉田彩乃 写真:竹之内祐幸
※この記事の内容はdancyu2019年4月号に掲載したものです。