怪魚の食卓
そのミル貝、本当にミル貝ですか?|怪魚の食卓⑦

そのミル貝、本当にミル貝ですか?|怪魚の食卓⑦

あなたが食べているミル貝は、何ミルでしょう?見た目はグロテスクだけれど、日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介。

ホンミルではなくてシロミルかも!?

鮨屋では「ミル貝」とひと言で注文するが、実はミル貝には「ホンミル」と「シロミル」がある。また本物のミル貝であるホンミルは、ミルクイともクロミルとも呼ばれる。

ところがこのホンミル、人気の鮨ダネゆえ足りなくなってしまい、そこにシロミルがホンミルの代用として登場した。すると、安くてうまいので、あれよあれよと人気が出てきて、今ではこの“代用品”のほうが多く流通している。ホンミルとシロミルは分類が違う。だが、ぶっとい水管を食べるという点では同じである。

水管は、とにかく長い。へび花火のようにウニョウニョウニョと出てくる。のびきると10㎝前後になるものもある。長すぎるからか、殻にうまく収まらず、殻がきっちり閉まらない。殻から水管がはみ出ている姿は、実に奇妙なのである。

多くの産地で潜水具を装着したもぐり漁で獲っている。最近では海底の土砂を圧力ポンプで吹き飛ばし、シロミルを見つけやすくしてとるので、漁場が荒れてしまって数も減ってきた。そのため需要に供給が追いつかずに高価になってしまった。

シロミルはホンミルに比べて大味ではあるが、シャキッとした歯切れのいい食感はホンミル以上かも知れない。甘味も強く、すし飯との相性もいい。量感もある。砂泥地に生息する貝ならではの野卑ともいえるクセのある風味が少々あり、あと味まで残る。その点で好き嫌いが分かれる。

シロミルはときにお造りにもされるが、やはり握りに限るという人が多い。さっとあぶってから握るとさらにうま味が増す。「シロミルをあぶりで」と鮨屋で注文すると、かなり驚かれること間違いない。

シロミル貝の握り
1 すし飯を用意しておく。
2 水管を鮨ダネにする。殻をむいて切り離した水管を湯通しし、冷水で冷やしてから薄皮をむく。たて半分に切ってから表面に切れ目を入れる。
3 2の種を握る。
シロミル貝の握り

解説

野村祐三

日本全国の町を精力的に取材して50年。漁師料理関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。

文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏