カメラマンが、いつかまた食べたい料理
ブレイズド ブリスケット ビーフ オン ボイルドライスとホルモン|カメラマンが、いつかまた食べたい料理

ブレイズド ブリスケット ビーフ オン ボイルドライスとホルモン|カメラマンが、いつかまた食べたい料理

カメラマンの加瀬健太郎さん。今、食べに行きたい、会いに行きたい料理はなんですか?と聞くと……。

加瀬健太郎さんが食べに行きたいのは――。

イギリス・ロンドン「ワンケイ」のブレイズド ブリスケット ビーフ オン ボイルドライス

イギリス・ロンドン「ワンケイ」のブレイズド ブリスケット ビーフ オン ボイルドライス
「ブレイズド ブリスケット ビーフ オン ボイルドライス」なんて長い名前だ。日本語で言えば、「牛バラ丼」。僕が20代後半、英国に留学していた頃、ロンドンで初めて行ったチャイナタウンのレストラン「ワンケイ」で、通っては親の仇の様に食べ続けていた一品。このレストラン、特に美味しくはない。しかも、「英国で一番、店員の態度が悪い」ことで有名。でも、チャイナタウンで一番安いのがここだった。店に入ると、顎をしゃくって席に案内され、箸は投げられ、お茶も投げられ、はよ注文頼めやってプレッシャーをかけられ、料理もどんっと置かれ、何でか店員にメンチを切られた事もある。それでも、何故かここに通った。「ブレイズド ブリスケット ビーフ オン ボイルドライス、プリーズ」英語のままならない僕が、このフレーズをさらっと言える様になる程に通ってしまった。今思へば、初めて付き合った男がすごい嫌な奴だったけど、比較する対象がないので、まあこんなものかと思って、ずるずる付き合ってしまった可哀想な女の子の様だったと思う。ある日、僕が二階建てバスから外を見ていると、メンチを切ってきた店員が彼女とデートしているのが見えた。それから、店員に腹が立たなくなりました。

神奈川・関内「ひょうたん」のホルモン

神奈川・関内「ひょうたん」のホルモン
休みの日、映画を見ようなんてことになると、よく横浜の日ノ出町にある映画館に一人出かけて行く。このあたりの街の猥雑な感じといいますか、ごちゃごちゃした感じが、どこか故郷大阪に似ていて落ち着きます。それで映画が丁度夕方に終わったら、「なんか食べて帰るわ」って家に連絡して、ぶらぶらと伊勢佐木町商店街を歩いて行きます。目的地は、関内駅近くにあるホルモン焼肉の「ひょうたん 関内店」。ここの売りは、もちろん「ホルモン」。そう、漫画「じゃりン子チエ」のチエちゃんが、いつも煙に巻かれて焼いていた「ホルモン」です。当時、「じゃりン子チエ」を欠かさず見ていた小学生の僕は、母にホルモン買ってきてやと何度も頼みましたが、結局、一度も食卓に並ぶことはありませんでした。今なら分かります。ホルモンは、そんな家庭的な部位ではございません。「じゃりン子チエ」の劇中でも、ホルモンを食べているのは、大体孤独なオッサンなのです。あの日の小学生も46歳、孤独なオッサンになった僕は、お店のコの字カウンターの七輪の前に座ります。カウンターの中のオネエさん達は、程よく優しく接してくれます。とりあえず、もやしナムルにタン塩を頼みます。その塩と油を20時まで200円のレモンサワーで流し込みます。最高です。ここで野菜を挟みましょう。万願寺とうがらしや椎茸も良いでしょう。でもこの前は、仙台の曲がりネギが甘かったぁ。さあ、いよいよホルモンです。白モツ、コブクロ、ミノとオススメは色々ありますが、とりあえずミックスでいいでしょう。いろんな食感と焼けた脂身に甘いタレがよく合って、孤独なオッサンの杯は進みます。あぁ、ホルモンって、なんて美味しいんでしょう。どこの肉か分からんけど。

写真・文:加瀬健太郎