熟成によってさらに旨味が増す、フランスで一番愛されるシェーヴルチーズの「クロタン・ド・シャヴィニョル」。そこには専門の熟成士がいるのです。シェーヴルチーズは、山羊のミルクでつくられたチーズです。独特の酸味と香りが特徴で、フレッシュタイプから熟成タイプまで、さまざまな種類が楽しまれています。今回は、フランスのロワール地方にあるシェーヴルチーズの生産地、シャヴィニョル村を訪ねました。こういうときこそ、食のことをじっくり勉強するいい機会です。チーズ好きに贈る、シェーヴルチーズのつくり方や味わい方。チーズとワインをお家でじっくり味わいながら、現地取材ルポをお読みください。
山羊のミルクに極少量のレンネット(凝乳酵素)を加え24時間自然脱水すると、シェーヴル特有のホロホロと崩れる美しいきめを持つフレッシュチーズが出来上がる。
これだけでも十分においしそうなのだが、この後に行なう塩漬けと“アフィナージュ(熟成)”によって、「クロタン・ド・シャヴィニョル」にはさらに独特のおいしさが備わる。しかも熟成のどの過程でも、それぞれに異なる味わいが楽しめるというのだからうれしいではないか。
その工程を見学に、今も昔ながらの伝統的な製法を守る熟成士のロマン・デュボワさんの工房を訪ねた。
以前はワイン醸造に使われていた建物だというロマンさんの工房は、とても清潔で空調もしっかり完備され、一歩足を踏み入れると肌寒いほどヒンヤリしている。
まずは、農家から届いたばかりの出来たてほやほやのフレッシュチーズに、サラサラの塩をまんべんなくまぶし、おにぎりを握るようにしてギュッギュッと形を整える。クロタン・ド・シャヴィニョル専門の熟成士であるロマンさんの工房では、最初の工程である塩漬けの段階から手がけているのだ。
塩漬けしたシェーブルは最初の熟成室に運び入れ、3、4日間ほどそのまま放置し、その後、6日~12日間じっくり乾燥させる。その間、毎日、熟成室の風の流れをこまめにチェック。外側に並んでいるもののほうが乾燥が早いため、棚を移動させながら、1つ1つ手で角度を変えていく。
十分に外皮が乾いたら別の熟成室に移し、伝統的な方法にのっとり藁を敷いた木箱の中に並び替えて、ゆっくり熟成させていく。シェーヴルの表面を次第にカビが覆い、それぞれに個性豊かな表情が生まれるのもこの頃だ。
ここからは毎日、微細にカビの状態や柔らかさなどをチェック。頻繁に木箱や位置を並び替えながら、それぞれを最高の状態まで熟成させていく。多くのチーズ工房が作業効率を優先して機械化が進む昨今、鋭い観察眼と手間暇を要するこの作業こそが熟成士の腕の見せどころなのだ。
「チーズは生き物なので、何日経ったらこう変化するということは目安でしかありません。一番の人気は“ブルー”。誰にでも愛される1ヶ月半熟成のブルーです。それから先はその人の好みによってさまざまです」
そう話すロマンさんの工房では、酸味が爽やかなフレッシュなものから、とろりとまろやかになったもの、乾燥して味が締まり濃厚なコクがあり複雑味が増したものなど、7段階もの「クロタン・ド・シャヴィニョル」をつくっている。
次回は、各熟成段階について、じっくりとご紹介します。
文:瀬川 慧 写真:水島 優 協力:Juli & Benoit ROUMET