怪魚の食卓
肝が旨いヌルヌルの深海魚|怪魚の食卓①

肝が旨いヌルヌルの深海魚|怪魚の食卓①

見た目はグロテスクだけれど、素晴らしく美味しい!という代表が、この魚かもしれません――。

深海魚の正体は……

誰が呼んだか知らないが「どんこ」という響きがしっくりくる、タラコ唇でずんぐりむっくりの胴体。表面がヌルヌルしているのは深海魚あるあるである。標準和名は「エゾイソアイナメ」だが、アイナメはカサゴの仲間でこちらはタラの仲間である。

特有の匂いを放つが身の味は悪くない。ただ身よりもぷっくり膨れたお腹に詰まった肝が、どんこのうまさのキモである。もともと漁師の肝好き率は高く、その漁師たちが「とれたての肝はあん肝よりもうまい!」と太鼓判を押すほどだからかなりの美味だ。汁ものにもあえものにも肝を入れる。焼き魚にも別添えで肝だれを作るし、煮魚にも肝を溶き入れる。そしてたいてい味噌がつきものだ。

沿岸に寄ってくる冬から春先が旬で釣りや網籠で漁獲されるが、沖合のトロール船の網にはほぼ一年中かかる。その網にかかったドンコが海の底から一気に引き揚げられると圧力の影響で口からものを吐き出してしまう。グベッと胃袋が出ているものもある。その姿形はなかなかグロテスクだが、口からものを出すということで「財布魚(さいふざかな)」とこじつけて縁起物とされているという。豊漁を祈って神棚に備える地域もあるし、気仙沼では「えびす講」でどんこを供え、どんこ汁を食べる習慣がある。ふだんはハンサムな鯛をかかえているえびす様に、たまにはこうした怪魚もいいものだ。

どんこの肝味噌煮のつくり方
1下処理をする。包丁の刃先でウロコとヌメリをとり除く。水洗いして水気をふきとる。エラブタを開き、指でエラをとり除く。肝を傷つけないように腹を切り、ハラワタと肝をとり出す。
2肝と味噌を合わせ、すり鉢ですって肝味噌をつくる。
3鍋に水、肝味噌、砂糖、日本酒を入れて沸かし、1のどんこを入れて煮る。

解説

野村祐三

日本全国の町を精力的に取材して50年。漁師料理、漁業に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。

文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏