「かれー屋 伊東」のカレーが食べたくなってる。
富山に「かれー屋 伊東」がある限り。

富山に「かれー屋 伊東」がある限り。

富山を代表するカレー店「かれー屋 伊東」。丁寧な仕事でカレーをつくり続け、2020年で創業43年となる。手間暇を惜しまずに仕込まれるカレー、名物の「ヤサタマ」と「コロ」、家族5人が中心となって店を切り回すアットホームな雰囲気。そのどれもが懐かしく、そして新しい。

お熱いのがお好き。

“やさたまコロッケカレー”870円。注文するときに「ヤサタマコロ」と言えるようになったら、立派な「かれー屋 伊東」ラヴァー。

「熱いから、気ぃつけてよ」
「かれー屋 伊東」で目の前に供された「ヤサタマコロ」。いざ口にしようとスプーンに手を伸ばせば、社長の伊東慎二さんの声が聞こえます。目をやれば、伊東さんはにこやかに「コロッケ、熱いからね」。その言葉を胸に、クリームコロッケをいただきます。

「かれー屋 伊東」の伊東慎二さん。屈託のない人柄が店のカレーに現れています。
店に入ると真っ先に出迎えてくれるショウウインドウ。ここでしばし何を食べようか迷います。

「あっちぃ」
あまりの熱々具合に、口にした瞬間、声が出て、まるでダチョウ倶楽部のコントのよう。気をつけていたけれど、本当に熱い。横で伊東さんが、にこにこ。
「揚げたてだから。お客さまに出すときも熱いですよって伝えるんです。火傷しちゃうとたいへんなもんでさ」
このときの伊東さん、にこやかというよりは、にやりといった面持ち。実は「クリームコロッケ」には並々ならぬ思いがあると告白します。

つくり置きなし。毎日、仕込むクリームコロッケ。ここに「かれー屋 伊東」の矜持がある。注文が入ってから生のコロッケを揚げるのも信条。だからいつも揚げたて、熱々。

「このコロッケが完成しなかったら、独立してないんだわ」
フランチャイズに加盟して、カレー店を営みながら、いつかは自分の店を持つことを夢見ていた伊東さん。それが簡単ではないことくらい、日々、カレーと向き合っていればよくわかる。独立するためには、名物が必要だと知恵をしぼる毎日。
「『ヤサタマ 』が誕生して、片方の足で立てるだけの体力はついたの。もうひとつ名物をつくって両足で歩けるようになれば、やっていけると思ってね」

「かれー屋 伊東」には他所ではあまりお目にかかれないカレーがある。“納豆カレー”720円。納豆と卵を合わせ、ふわっと焼いてオン。
豪華絢爛。贅沢なひと皿は“目玉焼き幕の内カレー”950円。「かれー屋 伊東」の愉しいところは好きなトッピングを選んでカスタマイズ自在なところにもある。

すべてはカレーのために。

ある日、伊東さんは思った。手間を惜しまないでコロッケをつくってみようと。
「カツカレーはどこにでもあるでしょ。コロッケもあると言えばあるけど、クリームとなると、あんまりないんだわ」
でもね、と伊東さんは続けます。
「おいしいコロッケがつくりたいわけじゃないの。もちろん、おいしいんだよ。何よりもカレーに合うってことが大事」
ああでもないこうでもないとトライアル&エラーを繰り返し、カレーと相性がいいクリームコロッケが完成して、伊東さんが自分の店「かれー屋 伊東」を開いたのは1998年。脱サラをしてから21年が経っていた。

食べるときは、熱いので本当に気をつけましょう。サクサクの衣の中にはまろやかでコクのあるクリームがぎっしり。カレーとの相性の妙が愉しめます!

「やってることは変わんないよ」と笑う伊東さん。と言いながらも、店はいま、3人の息子たちが切り回すようになって、伊東さんにもゆとりが少々。
「通販、始めてみようと思ってね」
急速冷凍の技術を使って、自店のホームページでルウの通信販売をスタート。自慢のクリームコロッケも求めることができる。
「富山のカレーをいろんな人に食べて欲しいんだ」
伊東さん、創業の頃とちっとも変わっていない。相変わらず、カレーのことばかり考えている。これからも、きっとそうなんだろう。

カレーと言えば、らっきょう。「かれー屋 伊東」では、ずっとらっきょうに頭を悩ませてきたという。カレーに合う質のいいらっきょうを探して、ようやく見つけた逸品。50円。

念願の「ヤサタマ 」を平らげた僕はすっかり満足。帰り際、伊東さんに「かれー屋 伊東」の未来を訊ねれば、簡潔な答えが返ってきた。
「自家製を貫く」
そう言って、ガハハハと笑う伊東さんである。

「かれー屋 伊東」の次代を担う伊東家三兄弟。手前から長男の大地さん、次男の将吾さん、三男の祐貴さん。

おしまい。

店舗情報店舗情報

かれー屋 伊東
  • 【住所】富山県富山市大泉町1‐2‐9
  • 【電話番号】076‐425‐1888
  • 【営業時間】11:00~20:30(L.O.)、土曜、祝日は11::00~15:00(L.O.)、17:00~20:30(L.0.)
  • 【定休日】日曜
  • 【アクセス】富山地鉄「西中野停留所」より7分、「広貫堂前停留所」より8分

文:エベターク・ヤン 写真:小原太平

エベターク・ヤン

エベターク・ヤン (編集者)

江部拓弥と同一人物であると思われる。『牯嶺街少年殺人事件』のエドワード・ヤン監督と名前が似ているが、まったく関係ない。