福井駅の繁華街にある「職人二人」。福井の海の幸を存分に愉しめる居酒屋、と耳にしたが、単なる居酒屋じゃない様子。連夜満席という人気の理由を料理から探っていこう。
福井の新鮮な海鮮が愉しめる「職人二人」。
繁華街のそう目立たないビルの2階に位置し、階段を上がれば立派な看板こそあるものの、外観にそう大きく掲げているわけでもない。
というのに、連夜満員御礼。地元在住のおいしいもの好きカメラマンいわく、「予約をしないとなかなか入れないんです」と言う。
どんな魅力がお客を呼ぶのか?そして店名の意味は?
往年の小料理店を思わせる引き戸をガラリと開けた先には、なかなかカオスな世界が広がっていた。
棚からはワイングラスが吊り下がるも、メニューには日本酒、焼酎、シードル、水出しコーヒーも「オススメ」に踊る。ネタケースには鮮魚が並ぶも、厨房には雪平鍋にフライパン、パエリア鍋も並んでいる。どうやら通り一辺倒な居酒屋ではないみたい。
店主の清水雅弘さん、さおりさん夫妻と挨拶を交わすと、その謎はすぐに解けた。
少々強面の夫・雅弘さんは、18歳から和食の世界に入り、ふぐ免許も持ち、鮨も握る根っからの和食の料理人。
そして、にこにこ朗らかな妻・さおりさんは、イタリア料理、スペイン料理をはじめ、ワインにも造詣の深い料理人。
つまり「職人二人」とは店を切り盛りする夫妻そのもののこと。そして、料理は同じ素材を使うも、和食に仕上げるか、地中海料理に仕上げるかを選べるようになっている。
ふたりが力を合わせながらも、一方で互いに料理でしのぎを削る職人対決のような一面もある。これは、お客にとっては実に愉しいカオスである。
今日は同じ素材を使って、それぞれの得意料理をつくってもらおう。
その前に、9年前から供している「お通し」にして「名物」という1品を差し出してくれた。それがこちらの茶碗蒸し。
見た目からして具がてんこ盛りだが、なんと全部で27種もの具が入っている。
季節により内容は多少変わり、冬ならば、タラの白子、鶏肉、タケノコ、きくらげ、麩、海老、あさり、ウニ、干しエビ、かにかま、椎茸、三つ葉、ゆず、銀杏、モッツアレラチーズ、ブラックオリーブ、クコの実、ひよこ豆、とうもろこし、トマト、ニョッキ……and moreという具合。
「こちらを提供すると、お客様から『すごーい!』『玉手箱や!』と歓声があがりますよ」とさおりさんが説明を添えると、
「福井新聞で『茶碗蒸しの具は25種』って載ったら反響がすんごくて。これを目指していらっしゃる方もいてもう減らせない。俺も意地になってさらに増やしちゃったよ!」と雅弘さん。
つかみの名物に、多分に漏れず早くも心と胃袋を掴まれる。
刹那、「っしゃーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」と野太い雄叫びが平和な空気をぶち破った。
「あ、いつものことです。夫流の照れ隠しで『いらっしゃーい!』という掛け声です。不意を突いて叫ぶので、常連さんも構えてるのにいつも驚かれます」
……ここは店の主のしきたりに従うべし。さぁ、得意料理をつくってもらおう。ここからは職人二人の真剣勝負だ。
先攻は雅弘さんによる、鮮魚のお造り。何と華やかなことか。
「俺はもともと武生(たけふ)の人間やでぇ、武生の市場で競ってくるんや。武生の市場は地魚が多く揚がるでぇ、地魚にこだわるんや。生魚だけだと飽きたらいけんから、野菜を多めにフルーツも付け合わせに。本わさびと醤油だけじゃなくて、玉ねぎやマスタード、ワインビネガー、千鳥酢、オリーブオイルを合わせたドレッシングも添えて出す。カルパッチョ的にも食べられっでぇ!」
そこにすかさず、さおりさんがアシストする。「敵に塩を」ではなく、送るのは酒。日本酒“越の鷹 GREEN HAWK あらばしり 純米吟醸生原酒”。福井県で一番小さな蔵元「伊藤酒造」のもので、ライムのようなほのかな吟醸香と米の旨味が広がり、白ワインのような印象も与える。
対して、さおりさんが繰り出す魚料理は、魚本来の旨味を堪能できるアクアパッツァ。本日はメバルを丸ごと1匹!
「味付けは、にんにくにオリーブオイル、白ワイン、水、ハーブ、そして貝類のみ。時季の魚を使って、その魚が持っている味を引き出すようにしています。スープはバゲットに吸わせて召し上がってください」
合わせるは、穏やかな泡立ちのイタリア産ワイン“クエルチオーリ・レッジアーノ・ランブルスコ・セッコ”。清涼感のある香り、ブルーベリーの果実香に軽やかな酸味で乾杯にも最適である。
ほかに、「オーガニックワインの“ファンティーニ ピノ・グリージョ ファルネーゼ”も魚介の旨味と相性がよいですよ。ハーブの複雑なアロマ、クリーンな味わいで食事に寄り添うワインなんですよ」と、さおりさんが相思相愛の銘柄を教えてくれる。
先攻、後攻ともに違う持ち味で福井の海の幸を存分に味わわせてくれる!
続いて、2品目の料理対決へと進んでいこう。
――つづく。
文:沼由美子 写真:出地瑠以