福井の繁華街にある「職人二人」は、連夜満員御礼。福井の海の幸を、夫は和食、妻は地中海料理で提供する。その日仕入れた鮮魚で、それぞれの得意な料理として、1品目はお造りvsアクアパッツァが登場!続く2品目は?
和食の世界で腕を磨き、一見武骨な清水雅弘さんと、イタリア料理やスペイン料理で経験を積んできた、朗らかな清水さおりさん。ふたりで切り盛りする店では、夫婦といえど、個性の違う職人二人。それぞれの料理法で提供する。
共通するのは、毎朝、雅弘さんが武生の市場で競ってきた新鮮な魚介を使うこと。おかげでお客は好きな海の幸を、多様な料理から選んで味わうことができる。
それぞれの得意料理、1品目に夫は「お造り」を、妻は「アクアパッツァ」を。
続く2品目に繰り出したのは、握り鮨。雅弘さんは、この店を開く以前、鮨屋で鮨を握ること48年もの経験を持つ。
魚介は福井の地魚を中心とした新鮮なものを。そして、三国(みくに)産の甘エビの軍艦巻のような、巧みな仕事をした鮨種の握りもある。
「甘エビの味噌のみを取り出して、酒と一味唐辛子を加えて極弱火で火を入れたもの。1貫で約30匹分は使っている。これが不思議と三国のものじゃなきゃダメなんなんやでぇ!」。
そういう軍艦は、濃厚でこの味噌だけでも肴になりそうな味わい。
ああ、日本酒を大至急お願いします……!
対するは、大ぶりの牡蠣や海老を乗せたパエリアが登場!
「お米は実家でつくってもらっているんです。福井で生まれたハナエチゼンという品種で、魚介のだしで炊き上げています。実は、お鮨の酢飯も同じお米です。少し硬めで粘りが少なくてさっぱりしてるから、和にも洋にも合うんですよ」
育てた米は、あえて1年寝かせた古米にして用いている。軽い歯ごたえがあり、魚介の旨味をしっかり吸っている。レモンをギュッと搾ってもご飯がべちゃっとせず、粒がだったまま米の甘味とだしの旨味を堪能できる。
……ワインお代わりくださ~い!
幸せな“対決”で、すっかり愉しい気分で満たされる。
そこへ、この店に通う地元在住・おいしいもの好きカメラマンがささやく。
「ここ、ティラミスもおいしいんですよ」
いただきましょう、いただきましょう。
お願いすると、「これも食べてみて!」とりんごとゴルゴンゾーラチーズのケーキも出してくれた。どちらも、さおりさんの手づくりだ。
そこに、ニヤリと笑みを浮かべた雅弘さんが、最高のタイミングでさっとコーヒーを差し出す。
時間をかけて淹れた水出しコーヒーだという。
「カフェインが少なめだから妊婦さんも飲めるでしょう。味も安定するし、ワインみたいに長い余韻と香りを愉しめる」
聞けば雅弘さん、NPO法人チーズプロフェッショナル協会が主催するC.P.A.チーズ検定に合格した「コムラード・オブ・チーズ」認定者でもある。
「資格よりも、どうやっておいしく食べさせるかが大事なんじゃ!ま、さおりがワインが好きだからそのワインが輝くように、チーズも揃えてるんだけどな」
あら?なんだか素敵。
そもそもやりたい料理のジャンルが異なる二人が、なぜ、それぞれの方向性を変えずに店を営むようになったのか。
さおりさんが言う。
「小学生の頃から飲食店をやってみたくて。それを夫に伝えたら、ならば一緒にやろうということになったんです。両方ができるものをそれぞれやろう、と。とはいうものの始めて半年ぐらいは、料理道具も全然違うのでもめることが多かったですね(笑)。店を開いてからは、勉強を兼ねて、毎年一緒にヨーロッパに行くのが愉しみです。現地に行ったら1週間ほどアパートを借りて、食べ歩きをしたり、市場で食材の買い出しをして実際に自分たちで調理して味わってみる。その勉強が今お出ししている料理のもとになっています」
雅弘さんが言葉を添える。
「とにかくお客さんに喜んでもらえることをやる!魚が旨いのは当たり前。どこで獲れた何kgの魚か、料理はどうしているのか説明を添えて、エンターテイメントとして愉しんでもらう。自分ひとりの店だったら、お造りだってツマはあんなにカラフルにもフルーツが乗ることもなかったよ。でもワインを飲むお客さんもいるから大根と大葉だけのツマじゃなくなってきたわけ。これも、さおりが選んだワインが生きるように、よ。っしゃーーーーーーーーーーーっ!」
(※注:ご主人の叫ぶ「っしゃーーーっ!」は「いらっしゃいませ」であり、一種の照れ隠しでもあります)
店名「職人二人」には、プロの料理人である二人が互いにエールを送り合う気持ちが込められている。
お客を喜ばせたい!という共通の魂があるから、そして互いに譲れない領域があるから、日々、切磋琢磨。だから店は、いつだって二人が生み出すおいしいもので満たされている。
連夜満席の理由は、多くを語らずとも、ふたりの料理と愉しい掛け合いが説いてくれました。
――福井「職人二人」 了
文:沼由美子 写真:出地瑠以