東京都立浅草高校夜間部(正しくは、昼から夜の授業を担当する三部制B勤務)国語教師、神林桂一さんによる浅草エリアのランチ案内です。足を運んで、食べて選んだ自作ミニコミ「浅草ランチ・ベスト100」より、今回はポルトガル料理専門店の登場です!
今回からは「西洋料理・洋食」部門だ。「土日祝限定ランチ」でご紹介したフレンチの他にも、浅草には魅力的な新店が増えている。そんな中から、1軒目は「ぐるなび」で調べても東京に14軒しかないポルトガル料理。一見馴染みがない感じだが、いやいや、ポルトガル料理は日本人にとってとても馴染みやすいのだ。
16世紀、日本にいち早く渡来し南蛮貿易を始めたのはポルトガルだった。フランシスコ・ザビエルによってキリスト教が伝えられ、天ぷらを筆頭に、タバコ・パン・カステラ・バッテラ・ビスケット・キャラメル・コンペイトウ・飛竜頭(ひょうず・がんもどき)などは皆ポルトガル語である。
南ヨーロッパのイベリア半島で、スペインと大西洋に挟まれているポルトガルの食文化は、多くの国との関係抜きには語れない。
ローマ帝国の時代にはワインの製法が伝わる。8世紀からのイスラーム統治下では米やコリアンダー(パクチー)が入ってくる。一方、12世紀からのポルトガル王国は、大航海時代にアメリカ大陸(ブラジルなど)・アフリかインドなどに広大な植民地を獲得し、世界の料理に影響を与えると同時に、ポルトガルにもパプリカ・トウガラシ・スパイス類など多種多様な食材や料理が取り入れられる。
「ポルトガル食房 ジーロ」オーナーシェフの古川治郎さんは「魚の申し子」だ。魚好きが高じて北里大学水産学部三陸研究所で学生時代を過ごし、岩手の海の幸に魅了される。なんと水産学士の料理人なのだ。
その後、全国の日本料理店で魚介料理や鮨を学ぶ。魚の下処理やさばき方は誰にも負けない。その傍ら古代ハムの製法にも興味を抱き、「La毛利」(練馬)で南欧料理を学ぶ。海洋国家であるポルトガルは、日本と同じく魚介類・魚介料理が豊富だ。古川シェフが日本では知名度の低いポルトガル料理へと進んできたのには必然性があるのだ。
古川シェフは、2014年に埼玉で店を持ち、2018年に浅草に移転してくる。店名の「Giro(ジーロ)」は、元はイタリアの自転車レース名なのだが「イイネ!」という使い方もあるという。もちろん治郎さんにも掛けてある。当初は「ポルトガル・イタリア食房」を名乗り、スパゲティ・ピザもメニューに入れたが、「ポルトガル料理こそを食べてほしい」との思いからスパゲッティはやめた。
「ジーロ」の魚介類は、修業時代に惚れ込んだ高知・須崎漁港「野島鮮魚」の目利き人・野島英明氏の魚を直送してもらっている。 須崎漁港に上がったばかりの魚を吟味選別し、神経締めなど処理を行ったものだ。 エビ・カニは漁獲後の処理の仕方に長けたスリランカの特注品だという。
古川シェフが目指すのはポルトガルの郷土料理や家庭料理。シンプルだが素材を活かした料理は日本人好みなので、ぜひ味わってほしいという。僕も、イタリア料理やスペイン料理よりも日本に合っていると思う。
ランチでお薦めなのが、アロス・デ・マリスコス(海鮮ポルトガルごはん)。スペインのパエリヤがサフランを使うのに対し、マッサ・デ・ピメント(赤パプリカペースト)を使うのが特徴だ。魚介の旨味が爆発して、一度で虜になること請け合いなのだ。硬めのご飯風とリゾット風があって、どちらにするかも迷ってしまう優柔不断な僕なのであった。
副菜にパステス・デ・バカリュウ(干しダラとジャガイモのポルトガル風コロッケ)を注文すれば、もう無敵! これでお酒が飲めないとなると、これはもう拷問だ。
――というわけで、ワインを一杯(今日は学校は代休なのでお許しを)。
これがまた、ワイン通なら感涙物の「ヴィーニョベルデ」!! 「緑のワイン」と呼ばれ、ヴィーニョベルデ産の完熟した緑のブドウを用いて醸造される微発泡ワインだ(ワイン法に基づく厳しい条件をクリアしなければ名乗れない「原産地名保護制度」で守られている)。
そんな逸品が何種類も揃っている奇跡の光景に、同行の編集・写真の女性二人も狂喜乱舞していたのであった。
夜は、もうひとつの名物ワイン「ヴィーニョ・ド・ポルト」(ポートワイン)の3種テイスティングセットなどもある。「赤玉スイートワイン」が商標の問題でポートワインの名前を使えなくなったのは有名な話だが、本物を飲めば違いは歴然だ。
そして、ポルトガル料理の伝道師・古川シェフが、独特の丸い銅鍋を使った魚介の「カタプラーナ鍋」を用意してあなたを待っています。ただし、料理愛にあふれる古川シェフは語り出すと止まらないので、料理は冷めないうちにお召し上がりください。
最後に浅草のイタリアンベスト5をご紹介。
① 「ブラカリ」:2016年開店。このランチ特集でもリストアップ。
② 「ゴローゾ」:2014年開店。蔵前の独創的なイタリアン。ジビエ料理も得意。
③ 「ベヴィトーレ」:2019年開店。ワインとイタリアン。土日のパスタランチが安い!
④ 「カリッスィマ」:2006年開店。「アルポルト」出身。手打ちパスタが秀逸。
⑤ 「フォカッチャ」:1991年開店。オステリア。パスタ&ピザランチ。
文:神林桂一 写真:大沼ショージ、萬田康文