不思議の国のカゼトソラ。
新しい蕎麦屋のカタチ。

新しい蕎麦屋のカタチ。

甘い話で始まった蕎麦屋の物語。仕舞いも甘い話となります。だって、食後のデザートも名物だというんですから。食べ手の考える蕎麦屋の枠組みを軽々と飛び越え、風のように自由に、果てしなく広がる空の如く、「カゼトソラ」は我が道を進みます。

ラーメンもお菓子も。いろいろやりたいことがあって。

ようやく蕎麦にありつけたのに、「カゼトソラ」店主の大森大和さんは、「これからの時期、うちのメインはデザートです」だなんて言う。デザート目当ての予約もちらほらだとか。「あのデザート、始まりました?」なんて問い合わせもあるという。
蕎麦屋なのに、困っちゃいますよねと、ゴッホおじさんは言うけれど。その顔は、満更でもなさそう。蕎麦屋の常連が待ち焦がれる、デザートとは、いったいいかなるものなのだ?
「紅玉のホットケーキです」

ホットケーキ
こんがりと焼き色がついたホットケーキ。思えば「カゼトソラ」はすべてが名物なのである。ラーメンも前菜も小鉢の盛り合わせもたまご焼きも蕎麦も、そしてデザートも。

このために、日本橋まで行ってきました、と。そういえば、前にもそんなこと言ってたような。お店は週3営業だけど、ほかの日も食材を買い出しに、てんやわんやだとか。このホットケーキにぴったりの牛乳を求め、日本橋まで行ってきたらしい。もっと近いお店あるのでは、と聞いてみるも、自分が使いたい牛乳は、いちばん近いところだと日本橋の「明治屋」になるのだという。
ホットケーキワンホールに使う牛乳量は、たったの50mlなのに。なんなんだ、その執念は。でも「山地酪農家牛乳」のパックを見て、これはゴッホおじさん、買っちゃうな、日本橋まで、行っちゃうなって思った。だって、牛乳パックには、笑顔で牛と家族が戯れてる写真がプリントされてるんだもの。1本400円でも、パケ買いしちゃうに決まってる。そのありがたい牛乳を使う、紅玉の酸味がギュッと効いた紅玉のホットケーキは、季節限定のスペシャルオプションだって。

牛乳
紅玉のホットケーキにちょっとだけ使う牛乳。ほんのちょっとだけのために、小岩から日本橋まで買い出しに出かける。笑顔のパッケージも印象的。

えっと、お蕎麦屋さんの店主だよね?

「ラーメンもお菓子も。いろいろやりたいことがあって、とっ散らかって溢れちゃうよ」
大森さんは嬉しそうな困り顔。

店内
情熱が溢れ出している「カゼトソラ」店主の大森大和さん。蕎麦屋という枠に収まりきれないのだ。だから忙しい。だから週3日の営業。

最近、水曜日と木曜日のお昼限定ラーメン屋を始めたそう。中華ナイトの〆に登場した、クライマックスが最高のあのラーメン。いずれかは、ラーメンも店舗を持ってやってみたいとか、「カゼトソラ」のお菓子部門「おやつラボ」を、もっと充実させたいと意気込む。えっと、お蕎麦屋さんの店主だよね?

デザート
寒い時季のデザートは紅玉のホットケーキ(紅玉がなくなり次第終了)。違う季節には、こんなに素敵なデザートが登場します。心配無用です。

そろそろ、お暇しなきゃ。いろいろと、ごちそうさまでした。帰り道、電車に揺られ、ゴッホおじさんの星月夜を思い出す。
蕎麦屋なのに。焼き菓子を売ったり、ラーメンを振る舞ったり、デザートに力を入れたり、天井が星だらけだったり。なんとも不思議なお蕎麦屋さんだったな。いや、お蕎麦屋さん、なんて枠でくくっちゃうから、狭くなって、わからないのかも。蕎麦も、焼き菓子も、ラーメンも。一見バラバラに見える。けれど、そのどれもが、大森さんが心からやりたかったことなのだ。そう考えると素材も料理もお酒もお店もすべて一本の筋が通ってるように思える。大森さんのつくり出したあの空間で感じるすべてが「カゼトソラ」っていう名前の体験なんだ。やっぱり、ゴッホおじさんは、芸術家なのかも。

店
看板はないけれど、入口付近に店名が刻まれています。スマホばかり見ていると気がつかないかな。探してみてください。

お店のHPには、こんな一文があった。
「カゼトソラの主役はおうちそのものです。ゆったりと流れる時間の中で、料理や蕎麦をあてに、お酒をお楽しみください。」(一部略)
ああ、もっとお酒が飲めたらなぁ。もしかしたら、お酒が得意な人や、もっと食に詳しい大人から見える「カゼトソラ」の景色は、また全然違うものなのかもしれない。いや、きっと、そうに違いない。だって、芸術って、人によって感じ方が全然違うものなのだから。

店舗情報店舗情報

カゼトソラ
  • 【住所】東京都江戸川区西小岩3-27-12
  • 【電話番号】03-6315-3224
  • 【営業時間】18:00~22:00(19:30入店まで)
  • 【定休日】日、月、火、水
  • 【アクセス】JR「小岩駅」より10分

文:朝野小夏 写真:鈴木泰介

新しい蕎麦屋のカタチ。

朝野 小夏

埼玉県出身。丸の内の金融機関でOLをしながら、食雑誌に執筆。日中は、ポケットに隠した糖分をこっそり摂取し、頑張ってます。趣味は、寄り道。美味しいものを見つけても、写真を撮る前に食べちゃうのが悩み。