石田ゆうすけさんの青春18きっぷでミラクルミステリーツアー。
沼津に着いたら「ラブライブ!」。

沼津に着いたら「ラブライブ!」。

世の中には知らないことがいっぱいある。恥ずかしながら、おっさんたちは「ラブライブ!」のことをちっとも知らなかった。沼津の町を歩けば「ラブライブ!」が溢れている。ちらちらと眺めながら「中央亭」を目指す。ランチは餃子だ。そう意気込んで向かうと、店先には長い餃列があった。もとい、行列があった。

僕らの走ってきた道は…。

沼津のアーケードに入ると、アニメと思しき美少女キャラの横断幕がかかっていた。揃いのコスチュームを着た女子が9人並んでいる。この町が舞台のアニメだろうか。「ラブライブ!」というタイトルが見える。ライブというぐらいだから、アイドルの物語なのかな。

スポーツ観戦が趣味のオッサン3人には、沼津が“聖地”だなんて知るよしもありませんでした。

編集担当の痛風エベが眠そうな顔で言った。
「ラブライブ……愛に生きる、って意味ですかね」
「(某元議員の語調で)ち・が・う・だろー!『ライブ』は『生きる』じゃなくて、『コンサート』のほうだろー!」
「いや、違うと思うなあ。愛に生きる、ですよ絶対」
エベの顔をまじまじと見たが、冗談とも本気ともつかない。とぼけた男なのだ。
よく見ると、町はこのアニメのキャラだらけだった。ポスターにのぼりにマンホール。

2017とあるから2年はこの色が持ったということですね。
キャラクターひとりひとりの幟が延々と。
「見つけにきてね、わたしたちのたからもの」――ファンたちの心を狙い撃ちしてますなあ。

目指す「中央亭」は沼津駅から普通に歩いて5分ほどだが、痛風エベがR2‐D2歩行のために、10分以上かかって到着。目を疑った。

駅前は閑散としていたのに、いきなり現れた行列。

「ほんとに行列ができていましたね……」
「やっぱり早く来てよかったです。売り切れごめんの店らしいので」
僕らの前にいるおじさんに話しかけると、地元の人で、月に2、3回は訪れるという。行列を厭わず、それだけ来るというのはなかなかのことに思える。

やさしさに包まれたなら。

先頭を見にいったガリガリ君そっくりのカメラマン阪本くんが、真ん丸の目をキラキラさせながら戻ってきた。
「すごいです。温かいほうじ茶と、なんと使い捨てカイロのサービスがありました!」
「マ・ジ・デスカ!!」

なんて丁寧な。待つことも苦になりません!
こんなサービスをしている行列店ってありますかねえ?……夏はまさか「冷えピタ」配布?

ああっ、もう食べなくてもわかる!ここはおいしい!決まり!

それでも待つこと約30分。11時になると同時に綺麗な女性が中から出てきて、《営業中》の暖簾を店先に掲げた後、「皆様大変長らくお待たせいたしました。お寒いなかありがとうございます」とよく通る声でアナウンスし、深々とお辞儀した。百貨店のエレベーターガールみたいだ。最近、見なくなったけど。
客がぞろぞろ入り始めたが、僕らの手前でストップがかかった。先ほどの女性が再びアナウンスする。
「申し訳ございません。もう少々お待ちください。トイレは店の中にあります。またこちらに使い捨てカイロとお茶もございますので、どうぞご利用ください」

恭しく挨拶する店のお姉さん。行列店であることを考えるとなおさら感動的な接客姿勢。

さらにお姉さんはメニューを見せながら、ひとりひとりに説明していく。しばらくして僕らのところにも来てくれたが、前の人と同じ説明を律儀にしてくれた。経営哲学がしっかりあるんだろうなあ。

説明してくれるといってもメニューは餃子とライスだけです。

「こういうの、都会にはないですよね」
「遠くまで来ましたねえ」
待っている間、好き勝手に話していたら、エベが暖簾のマスコットキャラクターをぼんやり見ながらこんなことを言った。
「なんでレモンなんですかね?」
いや、逆になんで餃子屋のマスコットがレモンだと思えるんだろう?「愛に生きる」といい、やはり自由な発想が編集者には求められるのだろうか。

青果店ならレモンだと思うだろうけど、餃子店だからなあ。

さらに15分ほど待って、僕らも入店した。
餃子を待ちながら店内を眺めていると、あることに気付いた。さっきアナウンスしていた女性が残像拳のように何人もいて、あちこちで動いているのだ。

同じ容姿の女性があそこにも、あそこにも……。

「女性一族で経営しているそうです」と痛風エベ。
「なるほど……」
さっきまでのきめ細やかな接客の理由がわかった気がした。オヤジさんの店主には、ああいうのは無理だろうなあ。なんとなく。

――明日につづく。

店舗情報店舗情報

中央亭
  • 【住所】静岡県沼津市大手町4‐4‐7
  • 【電話番号】055‐962‐4420
  • 【営業時間】11:00~売り切れ仕舞い
  • 【定休日】月曜、第3火曜
  • 【アクセス】JR「沼津駅」より5分

文:石田ゆうすけ 写真:阪本勇

沼津に着いたら「ラブライブ!」。

石田 ゆうすけ(旅行作家&エッセイスト)

赤ちゃんパンダが2年に一度生まれている南紀白浜出身。羊肉とワインと鰯とあんみつと麺全般が好き。著書の自転車世界一周紀行『行かずに死ねるか!』(幻冬舎文庫)は国内外で25万部超え。ほかに世界の食べ物エッセイ『洗面器でヤギごはん』(幻冬舎文庫)など。