フェーヴが仕込まれたガレット・デ・ロワのピースを1月に食べると、幸運な一年に恵まれると言われています。遥か昔、中世ヨーロッパから続いてきた習わしですが、現代のフェーヴには幸運以外の魅力もあるそうです。
1月に食べるフランス菓子「ガレット・デ・ロワ」。
その魅力は枚挙にいとまがない、というのが、自称「デロワ・ハンター」の本音だが、老若男女を惹きつけてやまないチャームポイントのひとつが、フェーヴと呼ばれる小さな陶製の人形だ。
丸いガレットの中に仕込まれた、たったひとつのフェーヴ。それを運良く引き当てた人がその日の「王様」の栄誉をいただける、というなんとも心くすぐられる仕掛けに、静かな闘争心を掻き立てられるのが人の常というものではないだろうか。
フェーヴとはフランス語で“そら豆”という意味。そら豆が胎児の形に似ていることから、ヨーロッパでは古代から命のシンボルとされ、結婚や農耕にまつわる祭りの際にはそら豆が振舞われていたという。
ガレット・デ・ロワがキリスト教の「公現祭」に関係する菓子であることは先にも書いた通りだが、この菓子にフェーヴを入れることになった由来としては、古代ローマの農耕の神サトゥルヌスを讃える祭りにも関連があるとか、11世紀フランスのフランス・コンテ地方での教会責任者を決める行事から来ているなど、諸説ある。
その後、そら豆や金貨を入れた菓子やパンで、いわば「運だめし」をする習慣が根付き、19世紀にパリの菓子屋がドイツの「マイセン」の陶製の人形を入れたことをきっかけに、小さな人形が「フェーヴ」としてガレット・デ・ロワに入れられるようになったのだそうだ。
くじにせよ金貨にせよ、あるいはフェーヴにせよ「当たった人が長になる」という状況が、昔も今も人々を興奮させる要素であることは間違いない。
だってみんな「当たりたい」のだもの!
2020年、フェーヴはさらに進化を続けている。
そんなフェーヴの魅力について、フランスから食材や調理器具を輸入しているフレンチ・エフ・アンド・ビー・ジャパン株式会社の食材ディレクター、ベルナール・アンクティルさんに話を訊いた。
「もともとフェーヴは、その名の通り『そら豆』だったんです。それが今や、いろんなテーマでデコラティブなものがたくさん出ています。毎年新作が発表されて、フランスはもちろん、世界中のパティシエたちが、自分の好みに合うものを取り入れていますね」と、フレンチF&B社が取り扱うフェーヴを見せてくれた。
こ、これはすごい……。もはや「そら豆」はいずこ、色とりどりの小さなチャームがずらり。
いずれもウィットに富んだデザインで、収集欲を掻き立てるものばかりだ。
「コレクターもいるでしょうね」と、ベルナールさん。
はい、私もそのひとりです。しかしながら、これを全部揃えるには一体何台のガレット・デ・ロワを食べればいいのだ!?と、少々めまいが……。
「そら豆や金貨だった頃に比べると、今のフェーヴには驚くほどのバリエーションがあります。昔はシンプルな白い磁器のものが主流で、やがて陶器の人形に変わってきました。それも、最初はキリスト教のモチーフが多かったのが、いつの間にかこんなに種類が出てきた。世界中でガレット・デ・ロワを楽しむ習慣が根付いてきたからでしょうか。嬉しいことですね」
ベルナールさんにとって、ガレット・デ・ロワは子どもの頃からの温かい想い出と共にある。
「フランスでは、1月に家族や友達と集まると、いつもガレット・デ・ロワがあります。その場にいるいちばん小さい子どもがテーブルの下に隠れて、ガレットをカットするたびに『これは○○さん』と、そのひと切れの行き先を決める。大人はハラハラしながら、自分に当たりますように、と思って食べるんです。それで歯にガリッときたら、『やった!』となる。このときばかりは、どんな大人も童心に帰ってワクワクします。ガレット・デ・ロワは、フランス人にとって新年の大事な行事のひとつです」
最近では、高価なジュエリーをフェーヴにしてジュエリーブランドが限定で販売したり、数千個にひとつの確率で純金が当たるガレットが発売されたりと、宝くじ的なガレット・デ・ロワも出ているそうだ。
「ジュエリーや金ももちろん嬉しいけど、食べたときに小さいフェーヴに当たったら、その一年がすごく素敵になりそうな予感がして、それはそれは嬉しいものです。ぜひみなさんにも、そんな幸せな気分を味わってほしいです」
さて、すでに「デロワ月間」真っ只中。
みなさんもぜひ、今年はガレット・デ・ロワで運試しをしてみてください!
次回は、フランス大使に直径1mほどの巨大なガレット・デ・ロワを献上する「ガレット・デ・ロワ献上式」の模様をレポートします!
――つづく。
文:沼田美樹 写真:萬田康文