新年を迎えると菓子屋さんやパン屋さんに並び始めるガレット・デ・ロワ。新年を祝うためだけではなく、パティシエにとっては大切な意味を持つ焼き菓子でもあるのです。「クラブ・ドゥ・ラ・ガレット・デ・ロワ」の会長である西野之朗シェフにガレット・デ・ロワの魅力を訊きました。
フランスで、エピファニー(公現祭)を祝って1月に食べる焼き菓子「ガレット・デ・ロワ」。シンプルゆえに奥深く、一度ハマるとうっかり抜けられなくなってしまう“魔性の焼き菓子”だ。
さらなる魅力を探るべく「クラブ・ドゥ・ラ・ガレット・デ・ロワ」の会長であり、パティスリー「メゾン・ド・プティ・フール」のシェフである西野之朗さんを訪ねた。
「クラブ・ドゥ・ラ・ガレット・デ・ロワ」は、ガレット・デ・ロワをはじめとする伝統菓子の普及・振興・推進のために2003年9月に発足した非営利の組織。パティスリーや製菓学校、会の目的に賛同する法人や個人の会員によって構成されている。
西野さんは、フランス菓子屋「オーボンヴュータン」での修業を経て渡仏。パリで経験を積み、帰国後の1990年に日本初の焼き菓子専門店「メゾン・ド・プティ・フール」をオープンした。現在は3店舗を展開し、生菓子やショコラなど幅広い菓子を扱う。2018年、初代の島田進会長より引き継ぎ、「クラブ・ドゥ・ラ・ガレット・デ・ロワ」会長に就任。クラブ主催のコンテストや講習会などを積極的に運営している。
「洋菓子は本当にたくさんの種類があって、パティスリーの数も増えています。オリジナルのスイーツや斬新なデザインのものなど、パティシエたちはそれぞれに工夫を凝らして常に進化していますが、そんな時代だからこそ、原点に帰るような気持ちで伝統菓子を見直したい、そして広めたいと思ってこの会を運営しています」と、西野さんは言う。
伝統菓子のなかでも、とりわけガレット・デ・ロワが重んじられているのは、古くから「幸運を呼ぶ菓子」として愛されているから。
「ガレット・デ・ロワには、フイユタージュを折る技術や、レイエを入れる細かいナイフさばきなど、パティシエに必要なテクニックが詰まっています。構成が単純な菓子ゆえに、つくり手の技と個性がはっきり出るのも特徴」と西野さんは語ります。
「フイユタージュを折る技術はM.O.F.(フランス最優秀職人章)検定試験の課題にもなっているんです。この伝統菓子をちゃんとつくれる若手のパティシエを育て、次の世代につなげていくことが、私たちの使命でもあると思っています」
世の中は便利な道具にあふれ、しかもAIなんてものが出てきた日には、菓子づくりはそれはそれは楽になるかもしれない。けれど、長きにわたって受け継がれてきた伝統や、繊細な人間の感覚と技術によって生み出される美しい菓子には、底知れぬ魅力がある。
ガレット・デ・ロワには、華やかなホールケーキやショコラとはまた違った良さがある、と西野さんは言う。
「焼き菓子らしい、飽きのこないおいしさがあります。粉の香り、バターのリッチな風味、そこにアーモンドクリームの香りとコク。見た目も味わいもさほど派手ではないけれど、毎日食べても飽きないようなやさしい味わい。それに『1月はガレット・デ・ロワ』と、季節行事のひとつになっているのもまた楽しみです。もちろん、フェーヴや王冠という遊び心もね!」
ガレット・デ・ロワは、昔からつくられてきた菓子だから、材料はとてもシンプルだ。どこの店にも、いや、店どころか家庭でも簡単に手に入る食材でできるもの。
「だからこそ、ごまかしがきかないんです。でも、ひとつひとつの工程を丁寧に、それぞれの素材が一番良い状態で持ち味を発揮できるようにつくると、本当においしく、そして美しいものが焼き上がりますよ」
ではその「プロの技」を、見せていただきましょう!
ということで、次回は、西野シェフ式「ガレット・デ・ロワのつくり方」を堂々公開!
――明日につづく。
文:沼田美樹 写真:萬田康文