ガレット・デ・ロワのある1月。
ガレット・デ・ロワはこうしてつくる!

ガレット・デ・ロワはこうしてつくる!

フランスの伝統的な焼き菓子のガレット・デ・ロワは新年を祝う菓子。なかに埋め込まれたフェーブが入ったピースを食べると、一年の幸福が約束されるそう。「メゾン・ド・プティ・フール」シェフパティシエの西野之朗さんが、ガレット・デ・ロワのつくり方を披露します。

ガレット・デ・ロワに詰め込まれたパティシエの技。

1月の焼き菓子といえば「ガレット・デ・ロワ」。このところ日本でも人気が定着してきて、町の菓子屋さんやパン屋さんでも見かけるようになった、フランス発祥の焼き菓子だ。フイユタージュ(パイ生地)とアーモンドクリームというシンプルな組み合わせの菓子は、テクニックしだいで見事な作品に仕上がる。
「菓子職人の技術を問われる焼き菓子ですね」とは「クラブ・ドゥ・ラ・ガレット・デ・ロワ」会長の西野之朗さん。
日本初の焼き菓子専門店「メゾン・ド・プティ・フール」のオーナーシェフでもある西野さんが、今回特別にその「手の内」を明かしてくれるという。これは二度とないチャンス!?

西野之朗さん
西野之朗シェフは、40年以上に渡ってガレット・デ・ロワをつくり続けてきた。磨き上げられた職人の技をご覧あれ!

「生地は、アンヴェルセを使います」。アンヴェルセとは「フイユタージュ・アンヴェルセ」のことで、折りパイ生地の技法のひとつ。通常のフイユタージュは、小麦粉と水と塩でつくった生地でバターを包み込み、のばして折って、を繰り返してつくるのだが「アンヴェルセ」はその逆。
バターで生地を包んで折り重ねていく方法だ。通常の生地よりもハラハラとした食感で口溶けがよく、層も立ち上がりやすいのが特徴。
「仕上がりが軽やかなので、最近はアンヴェルセでつくっています」
では早速、西野流「ガレット・デ・ロワ」のつくり方を見せていただこう。

ガレット・デ・ロワ
パティシエに必要な技術が詰まっていると言われるガレット・デ・ロワ。毎年、パティシエたちによるコンクールも開催されている。

1生地を切る

フィユタージュ・アンヴェルセを2mmの厚さに伸ばし、丸く切り抜く。
「このとき大切なのは、2枚の生地の『方向』を覚えておくこと」
生地はのばした方向に縮みやすい。重ねるときに上の生地と下の生地を90度ずらすことで、縮む方向を分散させることができるそうだ。
「同じ方向に重ねると楕円になってしまいますからね」

生地を切る
生地を切る
上下で合わせる生地を90度ずらしておく。

2クリームを絞る

切った生地にセルクルで目安をつけ、クリームを渦巻き状に絞る。
「皮つきアーモンドでつくったアーモンドクリームにカスタードクリームを合わせたフランジパーヌというクリームを使います」

フランジパーヌ
「アーモンドクリームとカスタードクリームを1:1で合わせて生地に挟み込みます」
切った生地にセルクルで目安をつける
「絞るクリームの量が変わらないように、セルクルを置いて目安を決めます」
クリームを渦巻き状に絞る
「隙間がないよう渦巻き状にクリームを絞ります」

3フェーヴを入れる。

絞り終えたら、空気が入らないようにパレットナイフで平らにならし、フェーヴを埋め込む。
「あとで生地ごとひっくり返すので、フェーヴも逆さまに埋め込みます」

パレットナイフで平らにならす
一ヶ所にフェーヴを埋め込む
フェーブが入ったピースを食べた人は、一年を幸せに過ごすと言われている。

4生地をのせて密着させる

生地の縁に卵に水を加えた卵液を塗って、もう一枚の生地をのせ指で密着させる。
「しつこいようだけど、生地の方向を90度ずらすことを忘れずに」
生地がぴったりくっついたら、竹串で数か所刺して空気を抜く。縁を指で押さえながらナイフの背で切り込みを入れ、冷蔵庫で1時間休ませる。

縁の生地に水を加えた溶き卵を塗る
「生地の縁に塗る卵液が少なかったり、多かったりすると、中のクリームが漏れ出してしまうんです」
もう一枚をのせる
「ゆっくりと生地をのせて」
指で密着させる
「指で優しく押さえつけます」
縁を指で押さえながらナイフの背で切り込みを入れる
「ナイフの背で切れ込みを入れて、生地が簡単に剥がれないようにします」

5卵液を塗る

生地を取り出したら逆さまにひっくり返し、卵液を全体に塗る。表面を乾かし、2回目の溶き卵を塗る。
「卵液が一ヶ所に溜まらないように塗ります。焼き色の美しさがここで決まります」

卵液を塗る

6模様を入れる

セルクルを置いて周囲の線を決め、中心から模様を描く。
「ナイフは斜めに入れます。深すぎず浅すぎず。刃の加減が焼き上がりの美しさに影響しますから、丁寧に」
今回は「勝利」を意味する月桂樹の模様を描いてくれた。模様が完成したら、ところどころに空気抜きの穴を開ける。

セルクルなどを置いて周囲の線を決める
「ナイフで入れた溝が焼き上がったときに、模様として浮かび上がります」
中心から模様を描く
ナイフは斜めに入れる
深すぎず浅すぎず
月桂樹の模様

7焼き上げる

さて、いよいよオーブンへ。天板にのせ、190度に予熱したオーブンに入れる。
「焼き時間はだいたい1時間くらいです。オーブンで焼いている途中で膨らみすぎないように鉄板をかぶせます」
ガレットは、表面が平らになるように焼くのが伝統だ。
「生地の空気をつぶしすぎるとエアリーな食感が生かせないので、マフィン型などで足をつくって鉄板をのせ、層が膨らむスペースを空けておくのがポイントです」
この細かい調整が、美しく、かつハラハラとした食感があるガレット・デ・ロワをつくるコツだ。

焼成する

8焼き上がり!

美しい黄金色に焼き上がったらオーブンから取り出し、熱いうちに表面にシロップを塗る。
「シロップを塗ることで表面にツヤがでて、食感もパリッとします」
さあ、これで美しいガレット・デ・ロワのでき上がり!
アツアツよりも、冷ました方が味が落ち着いておいしい。2日目以降に食べるときは、オーブンで温め直すのがおすすめだ。

オーブン
表面にシロップを塗る

受け継がれる伝統の技。

「メゾン・ド・プティ・フール」では、毎年400台ほどのガレット・デ・ロワを焼く。
「うちにはコンクールで優勝したガレット・デ・ロワの達人がいますからね、頼もしいですよ」と、西野シェフ。
スタッフの三浦一将さんは、2019年の第17回ガレット デ ロワ コンクールのプロ一般部門で見事優勝を果たした。
「若いパティシエがこうして伝統菓子に真剣に取り組んでくれるのはうれしいことですね」
三浦さんは、1月に開催されるフランス大使へのガレット・デ・ロワ献上式で、直径1mほどの巨大なガレット・デ・ロワを焼き上げることに。
「そのために特注の鉄板をオーダーしましたよ!」
その様子も追ってレポートします!乞うご期待!

次回は、ガレット・デ・ロワのお楽しみのひとつ「フェーヴ」のお話を。コレクター心をくすぐるアイテムが登場します。

西野之朗さんと三浦一将さん
西野シェフに「ガレット・デ・ロワの達人」と褒められ、照れ笑う三浦一将さん。
外観

――つづく。

店舗情報店舗情報

メゾン・ド・プティ・フール 本店
  • 【住所】東京都大田区仲池上2‐27‐17
  • 【電話番号】03‐3755‐7055
  • 【営業時間】9:30~18:30
  • 【定休日】火曜、水曜
  • 【アクセス】都営地下鉄浅草線「西馬込」より15分

文:沼田美樹 写真:萬田康文

沼田 実季

沼田 実季 (フリーエディター&ライター)

大学卒業後、広告制作会社、アートギャラリー、出版社で勤務した後、フランスの美術センターにてキュレーターのインターンを経験。帰国後、美術雑誌、インテリア雑誌、グルメ雑誌、グルメサイトの編集を経て独立。食とライフスタイルを中心に編集、執筆を行う。趣味は、おかしづくりと、「トイレのサイン」コレクション。