まるで宇宙船のような型をしたケーキ。「Shinfula」の中野慎太郎シェフがつくる「フォレノワール」は、日本の漆をイメージしている。美しいチョコレートの膜の内側に詰め込まれているのは、洋菓子の伝統と中野シェフのアイデアだ。
「フォレノワール」と聞いて、えっこれが?と思ったスイーツラバーも、きっと多いことだろう。
“黒い森”を意味する「フォレノワール」は、その名の通り、ドイツ南西部の森林地帯にちなんだもので、名産のチェリーを使ったケーキ。切り分けて食べるサイズのトルテ型がオーソドックスなスタイルで、ココアのスポンジと生クリームを重ねた中にキルシュ風味のチェリーを挟み、上から削ったチョレートをたっぷりとふりかけるのが一般的だ。
形がスクエアだったり、ロールケーキだったりと多少の変化球はあるにせよ、どの店も構成自体はさほど変わらない。しかし、中野慎太郎シェフのそれは想定外。
顔が映り込むほどに光沢を放つドーム型のケーキなのだ。
中は、キルシュ風味と紅茶風味のチョコレート、2種のムースに分かれ、中央付近にはキルシュ漬けのグリオットチェリーを忍ばせている。ムースのクリーミーな食感を受け止めるのは、スポンジ生地ではなくプラリネとチョコレートのフィアンティーヌ。そこにライスパフを加えているのも、中野シェフらしいアイデアだろう。
「ライスパフを入れることで、空気感と同時にボリューム感を出すこともできると思ったんです。それに、ライスパフって日本人でなければ、思い浮かばないアレンジだと思いませんか?」と中野シェフは楽しそうに語る。
伝統菓子を今一度見直し、日本の菓子職人としてつくり直す。そこに新たなオリジナリティが生まれるわけだ。”神への捧げもの”という意味のケーキ「アンブロワジー」を思わせるグラッサージュショコラの光沢は、まるで漆のよう。聞けば、そのグラッサージュにも黒糖を入れ、さりげなく和のテイストを加味している。
――12月13日へつづく。
文:森脇慶子 写真:馬場敬子