明日、どこに食べに行こう?
粋で鯔背なオーセンティック立ち喰いに行こう!

粋で鯔背なオーセンティック立ち喰いに行こう!

昨今の東京は立ち飲みブームだが、そもそも、職人の町であった江戸では、仕事の傍らで早く食べられるものが求められてきた。その江戸の風俗が東京にも伝承しているかのような、粋なスタンドを3軒ご紹介します。

立って喰うから鯔背なのさ

そんなにせっかちなわけではない。どちらかというと、のんびりした性分なのだが、立ち喰いの店に出会うと、行かずにいられない。全然江戸っ子でもないのに、おっと立ち喰いかい、ちょいと寄ってみねぇとな、なのである。

そもそも、旨いものを立って食べる文化は、江戸で花開いたものだ。世紀の初めには江戸の各所に繁華なところが生まれ、通りに屋台が並んだ。この屋台に席などない。車付きの屋台は明治になってからで、江戸の屋台は据え置きだったから、その様子は立ち喰いの店そのものだ。それが今に続いている。

そんな屋台で気の早い江戸っ子たちは食事をした。だから、立ち喰いでは鯔背でありたい。飲むなら、ぐでんぐでんなんてもってのほか。背筋を伸ばして、さっとすませて河岸を変えるか帰るか―そんな庶民の粋が光るのが、この立ち喰いだけれど、近頃は、庶民の声なんて黙殺される世の中である。だからこそ、今こそ、立ち喰い界の、横綱、三役たちを巡ってやろうと町に出たのである。

「いさ美寿司」 勇み足でも大金星

おまかせ握り上1,500円、一貫30~200円。ビール400円、日本酒一合400円。予約不可。
三代目の藤岡正明さんは、学生時代にこの店でアルバイトをしていた。一度は業界を離れアパレル界に入ったものの、一念発起して鮨店で修業した後、ここを引き継いだ。すべて手頃で旨く、ゲソは30円!

江戸の立ち喰いの大きな功績といえば鮨だ。それまで押し鮨などが主流だったのを、江戸の立ち喰い文化が、さっさと食べられる握り鮨を生んだのである。大井町の「いさ美寿司」は、広さは二坪くらいで、7、8人で店内は鮨詰めになる。屋根はあるが、お値段は屋台級にお手頃。だが、三代目店主の藤岡正明さんに、その秘訣を聞いても、笑って、

「こういうお店ですから」

と、一言だけ。しびれるなあ、こういうの。もちろん、ここは山葵も効いている。

「江戸政」 親方と女将の四つ相撲

焼鳥のセットは5本1,420円。かわ300円。ビール中瓶470円。日本酒580円。予約不可。
もとは屋台から始まった。三代目の浜名久利さんは、二代目の娘、知子さんの夫。伝統を引き継ぎながら、「ギャートルズの肉から思いついた」というかわなど、新しくて美味しい革新を夫婦で続けている。

両国橋の袂にある「江戸政」は大正13年創業の焼鳥屋だ。この店は、最初の注文はお決まりの“五本一組”のみで、まず、これを食べ、追加するもよし、勘定するもよしという仕組み。忙しい店だから、三代目の浜名久利さんは、いつもひたむきに焼き台に向かっている。ここは、なんというか、何から何まで、一本筋が通った感じがする。それは浜名さんの言葉にも表れる。

「新規の方も常連の方も変わりません。むしろ粋な常連さんは、新規の人の前では一歩引いてくれる」

こういうことを思っている人を、鯔背、というのだろう。人は羽を休めるときだって、それなりの格好というものがある、のだ。

「鈴傳」 真似の出来ない角打四十八手

黒船来航の3年前に開店。現店主の磯野真也さんで七代目の老舗角打だ。
つまみは380~430円。火曜は牛すじ、水曜はレバー、金曜は串カツと煮玉子と“十四代”がお薦め。日本酒一合400円~。予約可。
約30年前、業界で先駆けて日本酒の冷蔵庫での管理を始めたことでも知られる。
日本酒好きによる日本酒好きの角打である。

最後は四谷の「鈴傳」である。角打から発展した立ち飲みで、昔から各地の旨い日本酒を取り揃えている。肴は煮物、揚げ物、サラダと豊富。売り切れることもあるが、缶詰もあるから安心。火事と喧嘩は江戸の華と言ったそうだが、ここは華やかだがそういうことはなし。立ち飲みながら、もたれるための鉄のバーまで設けてあり、隅々まで安心だ。やせ我慢を極力させない、こういう粋も洒落ているではないか。

無理ばかり通って道理は引っ込みっ放し、潔さが死語のように思える世の中で、こんな粋な店たちは貴重だ。ちょっと大袈裟だけれど、こういう立ち喰いに行くと、希望がわいてくるのだ。ま、こんなご時世だけれど、明日もちょっと頑張ろうと思うために、今夜あたり、ちょっと寄っていかねぇかい?

店舗情報店舗情報

いさ美寿司
  • 【住所】東京都品川区東大井5‐3‐13
  • 【電話番号】03‐3474‐8089
  • 【営業時間】18:00~24:00(売り切れ仕舞い)
  • 【定休日】日曜 祝日 土曜 不定休
  • 【アクセス】JR・東急大井町線ほか「大井町駅」より1分

店舗情報店舗情報

江戸政
  • 【住所】東京都中央区東日本橋2‐21‐5
  • 【電話番号】03‐3851‐2948
  • 【営業時間】17:00~20:00(売り切れ仕舞い) 土曜は~18:30
  • 【定休日】日曜 祝日
  • 【アクセス】都営浅草線「東日本橋駅」より5分

店舗情報店舗情報

鈴傳
  • 【住所】東京都新宿区四谷1‐10
  • 【電話番号】03‐3351‐1777
  • 【営業時間】17:00~20:50(L.O.)
  • 【定休日】土曜 日曜 祝日
  • 【アクセス】JR・東京メトロ「四ツ谷駅」より2分

文:加藤ジャンプ 写真:伊藤徹也

※この記事の内容はdancyu2017年8月号に掲載したものです。