雪のちらつく京都に降り立ったらまず目指すのは鍋の店。ぐじにすっぽん、京野菜……冬の旨味をたっぷり詰め込んだ京都の「冬鍋」は格別だ。ほかほかと湯気の立つだしを味わい旬の味を頬張ると底冷えもよしと思えてくる。
京都でも数少なくなった正統派の割烹。フグ鍋や牡蠣鍋など、冬に美味しい食材で鍋を仕立ててくれる。甘味たっぷりの大根をなめらかにすりおろして入れる雪鍋(一人前5,400円)は、風情もあり心躍る絶品だ。この日は造りでも食べられる新鮮なぐじを鍋にしてもらった。白ねぎや白菜などの野菜のほか、粟麸や餅も入って食べごたえ十分。柚子を丸ごと入れるのがなんとも乙。煮立ってきたら、雪のような大根おろしを加え、柚子をぎゅっと搾ってハフハフ味わう。ぐじの旨味を吸ったとろとろの大根は、えも言われぬ味わいなのだ。
すっぽん鍋といえば「締めは雑炊」が定番。ところが、こちらではラーメン(プラス500円)まで味わえるのだ。開業30年。店主の父であり、和食の料理人だった先代が、多くの人に気軽に食べてもらいたいとすっぽんラーメンを考案。その後に、「鍋も」との客の要望に応えて専門店に。棚田の澄んだ水で育てた清らかな身のすっぽんと有機野菜を使った鍋のコースを、8,200円(一人前)というお値打ち価格で食べさせる。まずは野菜を入れずスープを一杯。体にしみ入る旨味を堪能する。スープは少なくなると足してくれるので、思う存分満喫できる。
寒い日にしんしんと冷えた里山の山荘で味わう鍋は格別のご馳走だ。大原三千院からも程近いこの店で、雪の庭を眺めつつ近江軍しゃも 鶏の鍋コース(一人前6,804円~)をいただく。甘辛く味つけされただしに、朝絞めの軍鶏と地元大原のごぼう、ねぎ、なめこを加えたシンプルな鍋。囲炉裏にかけてグツグツと音を立て始めたら、まずは熱々のごぼうと軍鶏を口へ。弾力のある軍鶏の濃い味に土が香るごぼうが旨い。締めには雑炊もいいが、主人が手打ちする十割蕎麦がまたいい肴にもなって、最後まで燗酒が手放せない。
祇園町の炭焼き割烹で味わえるのは、豆乳のだしで京野菜を煮込むやさしい鍋。場所柄、芸舞妓が食事に訪れることも多く、ヘルシーな野菜の鍋が誕生した。京の台所道具店「有次」謹製の銅鍋で、一人前(3,240円)からつくってくれる。昆布と鰹でとっただしに、京都ブランド「久在屋(きゅうざや)」の豆乳と「山利商店」の白味噌を加えたまったりスープ。水菜や小蕪、京人参に豆腐と具材もすべて京都産。そのままで豆乳や野菜を味わったら、ポン酢を少しつけて爽やかな相性を楽しむ。締めのうどんと豆乳だしのからみ具合が、花街の包容力を思わせる。
文:中井シノブ 写真:大道雪代
*この記事の内容は2018年2月号に掲載したものです。