「EST!」のカクテルブック
"夕顔"はハワイの黄昏|「EST!」のカクテルブック14杯目

"夕顔"はハワイの黄昏|「EST!」のカクテルブック14杯目

あまりに暑すぎた夏も終わりを迎える頃。「EST!」には、去っていく夏を想うのにふさわしいオリジナルカクテルがある。果実を噛みしめたときに溢れ出てくる果汁のような味わいは、遠い昔に見た風景を表現したものだった。

黄昏時に咲き誇る白い花を表したカクテルである。

マスターの渡辺昭男さんのオリジナルカクテルのひとつに、“夕顔”がある。
癖のないホワイトラムをベースに搾りたてのグレープフルーツの果汁。そして砂糖を入れない代わりに“ディタ”というライチのリキュールが入る。
華やかで高貴な香り、グレープフルーツの酸味と軽い苦味。それでいてどことなくオリエンタルなニュアンスがある。

夕顔
香りと風味は際立つも、過剰に砂糖が入らずさっぱりした甘さ。

マスターは言う。
「日本にない希少なお酒を探しに香港やハワイに出向いていた時期がありました。夕顔は、ハワイで見た黄昏時の風景をカクテルで表現したものなんです。『EST!』のお客様であり、ハワイのガイドもやってる方が、僕に見せたいところがあるって連れて行ってくれたところがあるんです。時間は夕暮れ時。土手のような場所で、白い花がびっしりと咲いていました。それは美しい風景だったんです」

渡辺昭男さん
「EST!」マスターの渡辺昭男さん。85歳。トリスバーのアルバイトからバーの世界に入り、銀座「静」(現在閉店)、湯島「琥珀」を経て、1973年に「EST!」を開店。現在は背骨の圧迫性骨折のリハビリのため、次男で新橋「Bar Atrium(アトリウム)」を営む宗憲さんが店を守っている。

マスターの見た白い花は、なんだったのか?
古代ポリネシア人によってハワイに持ち込まれた伝統植物、ウリ科ユウガオ属の「イプ」だろうか。イプの実は古くは種子や花は薬となり、乾燥させた皮は水や食料を入れる容器にも
フラには欠かせない楽器としても活用されてきた。
あるいは、「夜顔」「ムーンフラワー」とも呼ばれる、熱帯アメリカ原産のヒルガオ科サツマイモ属の「イポモエア アルバ」だろうか。

ラムは、キューバ産のホワイトラム“ハバナクラブ”3年熟成を用いる。
ラムは、キューバ産のホワイトラム“ハバナクラブ”3年熟成を用いる。
シェイカーに“ハバナクラブ” 50mlを注ぐ。
シェイカーに“ハバナクラブ” 50mlを注ぐ。
グレープフルーツを搾った果汁50mlを注ぐ。
グレープフルーツを搾った果汁50mlを注ぐ。
ライチリキュール“ディタ”を20~25ml(グレープフルーツの酸味によって調整する)を注ぐ。
ライチリキュール“ディタ”を20~25ml(グレープフルーツの酸味によって調整する)を注ぐ。
氷とともにシェイクする。
氷とともにシェイクする。
グラスに注ぐ。

「ベースのお酒は何にしよう、と考えたとき、向こうでもカクテルによく使われているラムを使うことにしました。甘さは欲しいけれど砂糖じゃつまらない。そこで甘味があって香りも際立つ“ディタ”を使うことにしたんです」

1980年以降にフランスで開発されたライチのリキュール“ディタ”が誕生したのは30年ほど前のこと。このカクテルが考案されたときには、比較的まだ目新しいリキュールだったはずである。

モデルとなった花の正体はどちらだとしても大した問題ではない。
遠い日の南国の黄昏を想い、目の前にあるカクテルを味わえば、それでこの一杯は完結するのだ。

――つづく。

店舗情報店舗情報

EST!
  • 【住所】東京都文京区湯島345-3 小林ビル1階
  • 【電話番号】03-3831-0403
  • 【営業時間】18:00~24:00
  • 【定休日】日曜
  • 【アクセス】東京メトロ「湯島駅」より1分

文:沼由美子 写真:渡部健五

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沼 由美子(ライター・編集者)

横浜生まれ。バー巡りがライフワーク。とくに日本のバー文化の黎明期を支えてきた“おじいさんバーテンダー”にシビれる。醸造酒、蒸留酒も共に愛しており、フルーツブランデーに関しては東欧、フランス・アルザスの蒸留所を訪ねるほど惹かれている。最近は、まわれどまわれどその魅力が尽きることのない懐深き街、浅草を探訪する日々。