普通に寝て普通に起きたら捻挫をしていた。なんていう突然の激痛に見舞われながらも、やむにやまれずけっこうな量のホッピーを飲んだ――。その日から性悪な「あいつ」との付き合いは始まっていた。
医者はこともなげに、お決まりの検査をし、薬を処方した。その結果、いわゆる尿酸値を下げる薬と痛み止めをもらい、素直にそれを飲むことになった。
激痛は、驚くほど引いた。激痛が治ってみればつらいことはないし、足の腫れもさほど気にならない。
溜まった尿酸が結晶化して関節のあたりに蓄積し、それを白血球が攻撃するときに炎症を起こして、痛みと腫れをもたらす――。
さっそく調べてそれくらいのことは知るわけだが、だからといって何かやるべきことがあるわけでもない。しかも、一週間後に病院へ行き、激痛があった時点で採った血の検査結果を聞けば、尿酸値はさほど高くはないという。自覚症状はどうかと言えば、あれは何だったのかというくらいに「なんでもない」状態に復しているのである。
なんだ、こんなもの。痛風かどうかもわからんし、これが痛風だとしても、すぐに軽くなるなら恐れるに足りず。贅沢な食事がいけない、飲み過ぎがいけない、いろいろ忠告してくれる人もあったし、鰹節、干し魚、魚卵、酒類の中ではビール、日本酒がいけないなんて、したり顔で言う人にも出会った。
けどね。冗談じゃアないんだよ。フォアグラなんぞ喰ったらてきめんに腹を下すほど“贅沢な食事”とは肌が合わない私だが、“おかか”を取り上げられたら、生きていけない。“軽く炙ったしょっ辛いタラコで燗酒を飲む楽しみ”なしに、明日からどう生きていけばいいのか、わからない。
結局のところ、摂生はしないことに決めた。痛風によくない酒は、ビールを筆頭に、日本酒やワインなどの醸造酒が続き、影響が比較的に少ないのが、ウイスキーや焼酎などのスピリッツ系ということになっている。
けれど、実のところ、この頃から、日本酒やワインが、実にうまいなあ、と思い始めたところであって、その芽を自ら摘む気になれなかった。
ここからが、痛風、あるいは、痛風と思われる状態との折り合いをいかにつけるべきか、という時期に入った。
一説によれば、脱水がいけないという。アルコール摂取量の多い人々に脱水はすぐそこにある危機であり、自覚したその日から、やたらマメな水分補給を始めたりする。
けれど、それが、どういう効果をもたすのか、わからない。食生活に関しては、何をどれだけ喰ったらこうなる、という基準も見つけにくい。タラコをふた腹喰ったら発作が出たというなら加減のしようもあるが、思い当たる節がまるでないのに、ある朝、あ痛たたたたた、ということが起こるのだ。
つまり、折り合いはつかないのだ。
しかも、なってほしくない、というときに、なる。
痛風は、性悪である。それに屈したくないばかりに抵抗して、ワルに弄ばれる。そんな日が続いたある日、転機は訪れた。
――つづく。
文:大竹聡 写真:安彦幸枝