痛風と私。
あれれれれ、というくらいに歩けない|大竹聡さんと痛風①

あれれれれ、というくらいに歩けない|大竹聡さんと痛風①

シリーズ「痛風と私」。トップバッターは、角打ちからオーセンティックバーまで、酒場を網羅する作家にして、酒飲み人生謳歌マガジン『酒とつまみ』を創刊した大竹聡さんです!

起きたら捻挫をしていた、というのは信じがたい。

それは、ある朝、突然始まった。
布団から這い出してトイレへ行こうと思ったとき、左足の甲から足首にかけて、ひどい痛みが襲ったのだ。

うまく、立てない。捻挫のようでもあるが、昨晩は普通に寝て、起きたら捻挫をしていた、というのは信じがたい。
なんだこれは。ひょっとしてこれが痛風か。『酒とつまみ』の連載陣のひとりである、すわ親治さんから、痛風の痛みについては伺っていたので、咄嗟にそう思う。いやしかし、痛風というのは、足の親指の付け根がぷっくり腫れて、赤黒くなり、じっとしていても、その激痛にあえぐ、と聞かされていた。

私のは、そうではない。寝ている間、痛みも何も感じなかった。立とうとしたとき、痛みがきて、踏ん張れなかったのだ。つまり、足の裏を床に付けないかぎりは、痛まないのである。風が吹いても痛いということではないのだ。

では、何か。ひとまず切迫している用事を済ますべしとトイレへ向かうが、あれれれれ、というくらいに歩けない。そして痛い。汚い話で恐縮だが、トイレでは立ったまま用が足せず、やむなく座りションという形になったのだが、気が付けば額に脂汗。息はぜえぜえしている。これじゃ出かけられないな。今日は、必ず行くべき取材、打ち合わせなどあっただろうか、と思い巡らして、愕然とした。

『酒とつまみ』の集団的押しかけインタビューの当日だったのである。
ゲストは玉袋筋太郎さん。場所は中野坂上の「加賀屋」。這うようにして洗面所へ行き、そのまま隣の風呂にどぼんと入り、また這うようにして居間へ戻って、うどんだけ啜る。足を床につくことができない私は、その日の外出を断念すべきか悩んだ。しかし、行かねばならぬ。玉袋筋太郎さんと酒を飲み、盛り上がらなくてはならぬのだ。

それでも私は、ホッピーを飲んだ。

自宅前までタクシーを呼び、三鷹駅へ出て、中央線で荻窪、そこからは丸の内線で中野坂上へ行く。時間は、そうね。タクシーに乗ってからでも、ゆうに2時間はかかるな。
ちょっと大袈裟な読みをしたが、三鷹駅でタクシーを降りたとき、読みは正解だったと認識した。歩けない。とにかく歩けない。荻窪の乗り換えで悶絶し、中野坂上で地上に出るのに悶絶し、ここだ、という場所へ着いたら、なんと店は地下にあって、再々悶絶。

それでも私は、ホッピーを飲んだ。しかも、けっこうな量のホッピーを飲んだ。酒が回ると痛みはやわらぐようで、帰りは、行きほどに悶絶はしなかった。

が、翌朝、ぶり返した。いよいよ這って便所へ行く。水を飲むにもいちいち立てないから、ポットに大量の水を詰めて側に置く。
足は腫れも出て、実に無残。湿布を貼り、包帯をきつく締めて、歯を食いしばり、半ばケンケンしながら駐車場へと向かい、車に乗って病院を目指した。

――つづく。

文:大竹聡 写真:安彦幸枝

大竹 聡

大竹 聡 (ライター・作家)

1963年東京の西郊の生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告会社、編集プロダクション勤務を経てフリーに。コアな酒呑みファンを持つ雑誌『酒とつまみ』初代編集長。おもな著書に『最高の日本酒 関東厳選ちどりあし酒蔵めぐり』(双葉社)、『新幹線各駅停車 こだま酒場紀行』(ウェッジ)など多数。近著に『酔っぱらいに贈る言葉』(筑摩書房)が刊行。