この話、つづきです。
中学3年生の2学期が始まったばかり、もう、35年も前の話です。
放課後、教室のベランダで、友達が深刻な面持ちで告白してきたんですよね。
「たまにさ、Jとしの区別がつかなくなることない?」
びっくりですよ。
僕も似たような悩みを抱えていたものでね。
僕の場合は、ぬとね。
読むときはすんなり。でもね、書こうとすると、あれっ。躊躇します。平仮名を書けるようになってから、ずっとそう。キーボードだと、そんなことはないんですから、あら不思議。
小学校1年生のとき、ぬとねを間違えて作文を書いたこともあります。
いねかりについて書いたのに、いぬかりと書いちゃった。
おかあさんはいぬをかまでかりました。となりでは大きなきかいが、たくさんのいぬをかってとおくにとばしてます。
恐ろしい作文ですよ。先生に指摘されて、そっちだったかぁと、くじに外れたような気分になったことをいまでも憶えています。
同じような感覚は、7+5と8+5にもあるんです。
5+7と5+8は12、13と、ぱっと計算できるのでが、逆になると、あれ、12だっけ13だっけと一瞬わからなくなる。6+5や9+5はそんなことないんですよ。なぜだか、7+5と8+5だけが、頭の中ですぐに足し算できない。
35年前、僕もそんな悩みを打ち明けようと思ったところに別の友達がやって来て、結局は話せず仕舞い。
あの日、途切れてしまった友達とのやり取りは、ずっと宙に浮いたまま。Jとしはどうなったのかな。
僕の方はと言えば、ぬとね、7+5と8+5はやっぱり苦手。すぐに回路が繋がらない感覚そのままに、五十路を迎えました。
dancyu web編集長 江部拓弥
写真:石渡朋