パンダ広場に行こう。
秋華賞が終わって、阪神タイガースも敗れると、いつの間にかそう思い始めるようになっていた。日本対スコットランドのラグビーワールドカッププールAの最終戦。日本にとっては重要な一戦を観に行く。
試合が始まる1時間ほど前、御徒町駅に到着。ホームから会場を見下ろせば、人が溢れている。黒山の人だかりだぁ。なんて思いながら、金あり茶あり赤あり白ありのカラフルな髪の色を目にすると、果たして黒山の人だかりと呼んでいいのかな。そんなどうでもいいことに気を取られながら、改札を抜ける。
屋台がいくつか並んでいる。ビールが売られているけれど、長い行列。ビールよりも、観戦場所を確保することが先だよね。人波を縫って進む。無秩序に陣を取る大柄な異国の人たちの前にわずかなスペースを見つけて、体を滑り込ませる。立錐の余地がないってこういうことなのか。妙なことに納得しながら、所在なく試合開始を待つ。
初めてのパブリックビューイング。なぜ、ここに来た?
ニッポン、パパパパンってやりたいのかな。いやいや、興味がないですよ。
トライの後に見知らぬ人たちとハイタッチをしたいのかな。ううん、それも遠慮したい。
なんでここにいるのか、自分でもわからない。だって、ビールも飲めない、トイレにも行けない、ときには酔った異国人に後ろから押されたりもする。家でのんびりテレビを観ていた方がよかったんじゃないか。そんな雑念もいつの間にか消えていく。大きな画面しか目に入らなくなる。
後半、スコットランドの猛攻にはらはら。胸がぎゅーっとなったとき、ふと、気づく。あぁ、そういうことか。
日本が負ける瞬間をひとりで見たくなかったんだ。これまで幾度となく経験してきた人生のままならない瞬間をひとりで受け止めたくなかったんだ。だから、ここに来た。けどね、案ずることはなかった。
日本は勝ったよ。抱き合ったり飛び跳ねたりする人たちの横を抜け、祝杯のビールも飲まずに駅へと向かう。年をとると涙腺が緩くなるって、ほんとだわ。
dancyu web編集長 江部拓弥
写真:小原太平