2019年も「d酒」をつくりました!
d酒2019「熊本酵母の旅」エピソード1

d酒2019「熊本酵母の旅」エピソード1

「d酒(ざけ)」造りが、今年も始まりました!2018年に続く、2度目の酒造り。酒米は何にする?酵母は?仕込みはどうする?走り始めた2019年版d酒の1ページ目は、2年連続2度目の造り手となる藤田千恵子さんから幕開けです!

2019年は山廃だ!

「一生に一度のことだから」と悲壮な覚悟で佐渡・学校蔵でのd酒造りに参加した2018年の夏。
あれから一年が過ぎた。青春をなつかしむように、青くなったり赤くなったりの日々を思い返していたところ、朗報!
「d酒造り、今年もやります!」とのメールが江部編集長から送信されてきた。

おお、卒業生である私のところにもお知らせが来るなんて。蔵で一緒に腕をふるわせた(腕をふるったのではない。米の重さで腕がプルプルと震えたのだ)身としては、OB同士の連絡会みたいで、なんだか嬉しく誇らしい。

その後、江部さんから「ご相談事」との再度のメールが送られてきた。
OBとしては嬉しくて、喜々として待ち合わせの喫茶店へと出向くと、江部さんからのお話は「今年のd酒は、山廃で仕込みます」というビックリの内容なのだった。

多分、私の顔には「羨望」という文字が浮かんでいたのではないか。
今年の酒米は、去年使用した越淡麗ではなく、五百万石に変更になるという。精米歩合は去年と同じ60%。五百万石で山廃仕込み。なんだか、しぶい昭和の酒になりそうだなあ。いいなあ。面白そうだなあ。
「一生に一度の酒造り」と決めていたわりには、私はもう、学校蔵に戻りたくて未練タラタラである。
そこに再びの朗報。
「フジタさんも来ませんか」。
ハイッ!

さらなる挑戦!「熊本酵母」で行こう!

さて、本題。
江部さんからのご相談は、今年の使用酵母をどうしようかということなのだった。
昨年は、「誰からも一口目で好かれるような上品な香りと爽やかさ」を求めて、きょうかい14号酵母(日本醸造協会で頒布される酵母。14号酵母は、平成8年に石川県の金沢国税局鑑定官室で局内に保管されていたものを分離)を選んだ。その際、同時に候補に挙がったのが、昭和の吟醸酒ブームを支えた9号(熊本)酵母である。

どちらも上品で控えめな香りのお酒を醸す酵母として魅力を感じていたが、昨年は佐渡との北陸つながり、という要素も鑑みて金沢発祥の14号酵母を選択。
実際、14号酵母で醸した新酒の風味は本当に爽やかで上品で、その選択は正しかったよねえ! と新酒が出来てきてくれた時、私たちはみんなで大喜びしたのだった。なので、14号酵母再び、という選択にも惹かれたが、しかし、今年はさらなる挑戦へ、ということで、9号酵母の使用も試してみたい。
それならば。
9号酵母のルーツである「熊本酵母」はどうだろう。

熊本酵母の発祥の蔵・熊本県酒造研究所が醸造する日本酒「香露」。もちろん、熊本酵母で醸されている。

以前、酵母の分離蔵である「香露」醸造元・熊本県酒造研究所に取材に伺った際、生命力旺盛な酵母に驚かされたことがある。蔵内でもろみのタンクを覗きこんだ時、発酵の終盤であっても熊本酵母使用のもろみは「まだ元気」と伝えるかのごとく、ぷくっ、ぷくっと泡立っていたのだ。
あの発酵力の強い酵母を入手できたら、d酒の山廃仕込みの酒は、もろみの発酵終盤まで元気に活動して力強くキレのある酒に仕上がるのでは!

しかも、である。
d酒を造る「学校蔵」があるのは佐渡島。
佐渡民謡の佐渡おけさは、熊本県天草にそのルーツがあるという説もあったりして。それって“酒造りにロマンを♡”のd酒造りにピッタリじゃありませんか!?

そう力説したところで、江部さんとの初回打ち合わせは、まずは終了である。

――つづく。

文:藤田千恵子 写真:比田勝大直

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藤田 千恵子(ライター)

群馬県生まれ。日本酒の味わいのみならず酒蔵の文化・杜氏蔵人の精神性に惹かれて各地の蔵元を取材執筆。著書に『日本の大吟醸100』『杜氏という仕事』(ともに新潮社)、『おとなの常識・日本酒』(淡交社)、『美酒の設計』(マガジンハウス)、『極上の調味料を求めて』(文藝春秋)など。2001年より日本酒と醗酵食品・伝統調味料の啓蒙をはかる「醗酵リンク」主宰。2004年より長野県原産地呼称管理制度日本酒官能審査員。「dancyu」「あまから手帖」日本酒特集など、雑誌寄稿多数。

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