「EST!」のカクテルブック
"ウイスキーサワー"に炭酸は入っていない|「EST!」のカクテルブック13杯目

"ウイスキーサワー"に炭酸は入っていない|「EST!」のカクテルブック13杯目

ウイスキーを使ったスタンダートカクテル、“ウイスキーサワー”。マンハッタンほどメジャーじゃないけれど、強い酸味とウイスキーの味わいがしっかり感じられる一杯。レモンスライスとチェリーの飾りも可愛い、往年のカクテルを味わおう。

炭酸水は入れずとも、長めのシェイクで炭酸のような気泡を生む。

「ウイスキーサワーは、ウイスキーを使ったカクテルの中で欠かせない一杯です。けれど、カクテルの女王なんていわれるマンハッタンや、オールドファッションのように数が出るものじゃありませんね。そもそもウイスキーベースのカクテルをください、というお客様が少ないんです」
そう、マスターの渡辺昭男さんは言う。

店内
テーブル席の脇には、スコットランドの蒸留所マップのタペストリー。酉の市が終わる頃には、アイリッシュコーヒーを愉しむ老人を描いたタペストリーに変わる。

初めて聞いたなら、ウイスキーの炭酸割りのようなものを想像してしまうかもしれない。
でも、差し出されたのは小さな可愛いグラス。レモンスライスとレッドチェリーの可憐な飾りが添えられている。
楚々としたクラシカルな飾りのカクテルは、レトロな純喫茶のレモンソーダを思わせ、飲んでみるときゅっと口がすぼまるような酸っぱさ。口中が華やかなウイスキーの香りで満たされ、可愛いらしい見た目に反して、アルコールもしっかり感じられる。

「サワーと聞くとつい居酒屋の炭酸で割ったお酒を思い出しがちかもしれませんが、サワーとは『酸っぱい』の意味で、実際には炭酸が入りません。その代わり、長めにシェイクをして空気をたくさん入れることで、炭酸水のような気泡を生むんです」
原則として炭酸水を使わないが、一部、最後にソーダやシャンパンで満たす処方もあるという。

ベースのウイスキーはカナディアンウイスキーの"シーグラム VO"を用いる。
レモン1/2カットを搾って20mlのジュースにする。同様にオレンジも搾って10mlのジュースにする。
レモンジュース、オレンジジュースをシェイカーへ注ぐ。
ウイスキー60mlを注ぐ。
「小指の爪ぐらい」の量の砂糖を加える。
氷を入れて、長めにシェイクする。
気泡がたくさん入っているうちに、グラスに注ぐ。

ウイスキーはカナディアンを。

ウイスキーカクテルは、何のウイスキーをベースにするのかが大きな課題である。スコットランド、アメリカ、カナダ、日本、アイルランドの5大ウイスキーと呼ばれる産地や、その他の新しい産地のもの。ピートのきいたもの、軽やかなもの。何を選ぶかで、味わいは大きく違ってくる。

ウイスキーサワーにバーボンウイスキーを用いるバーも見られるが、「EST!」で用いるのはカナディアンウイスキーである。
マスターの渡辺さんは言う。
「柔らかくて口当たりがいいでしょう。開業時からこのウイスキーを使っています。レモンやオレンジの香り、酸味を邪魔しないんです」

果物
ライム、レモン、オレンジ、グレープフルーツ。カウンターの上にはいつも、カクテルに使うつやつやの果実が盛られている。

「EST!」の果物は、フルーツ専門店から調達される。かつては地元の高品質な果実を扱う専門店から購入していたが、数年前に閉店。地元では「根津の“千疋屋”」と呼ばれて親しまれていた優良店だった。
消費の早いものはケース買いし、マスター自ら、その日に使う分を自宅から抱えてバーへと向かった。

現在は多くの果物は店に直接配送してもらい、ライムに限っては次男でバーテンダーの宗憲さんが、ほぼ毎日、買い物に赴いている。皮の厚さがそこそこあって、きめが細かく、艶のあり、果汁がしっかり取れるものを目利きしている。

選りぬきの果物の果汁は、シェイカーの中でウイスキーと混じり合い、溶け合い、グラスの中で静かな泡を立ち上らせている。一つ一つ選び抜かれた液体が混然一体となった「サワー」は、ぐびぐびと喉を鳴らして飲みたい居酒屋のサワーとはまた別物。その見た目も愛でながら、バーらしくじっくり味わいたい。


――つづく。

店舗情報店舗情報

EST!
  • 【住所】東京都文京区湯島345-3 小林ビル1階
  • 【電話番号】03-3831-0403
  • 【営業時間】18:00~24:00
  • 【定休日】日曜
  • 【アクセス】東京メトロ「湯島駅」より1分

文:沼由美子 写真:渡部健五

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沼 由美子(ライター・編集者)

横浜生まれ。バー巡りがライフワーク。とくに日本のバー文化の黎明期を支えてきた“おじいさんバーテンダー”にシビれる。醸造酒、蒸留酒も共に愛しており、フルーツブランデーに関しては東欧、フランス・アルザスの蒸留所を訪ねるほど惹かれている。最近は、まわれどまわれどその魅力が尽きることのない懐深き街、浅草を探訪する日々。