「EST!」のカクテルブック
"ブラッディマリー"は胡椒ウォッカの刺激|「EST!」のカクテルブック12杯目

"ブラッディマリー"は胡椒ウォッカの刺激|「EST!」のカクテルブック12杯目

夏の疲れを吹き飛ばすような、トマトの旨味と刺激的な辛味が融合するカクテル、ブラッディマリー。トマトジュースとウォッカのおなじみの一杯に宿る「EST!」らしさとは?

この刺激はどこからやってくるのか?

ウォッカとトマトジュースのカクテル、ブラッディマリー。シンプルなようでいて、タバスコやウスターソースを入れるレシピもあれば、セロリをマドラー代わりに差したり、バジルを添えるバーもある。トマトジュースを蛤のエキス入りのクラマトにすればブラッディシーザー、ベースのスピリッツがジンになればブラッディサムというカクテルになる。


ちなみにカクテル名は、数多のカクテルブックには、16世紀の英国女王で300人ものプロテスタントを処刑したメアリー1世の異名から付いたという説が載っている。
だが諸説ある。ブラッディマリーが生まれたとされるパリの「ハリーズ ニューヨーク バー」の常連だった女性客のマリーが、トマトのカクテルを飲んでいたことからこの名が付いたという説もある。

店内
口開けのバーは、すみずみまで掃除をされた、清々しいような空気で満ちている。

「EST!」のブラッディマリーは、見た目はシンプルでいて、ちょっとひねりがきいている。
ひと口飲めばピリリと爽快な刺激がはしる。味わいはスパイシーで、香草のような香りもする。
その秘密は、ベースのウォッカと加えるスパイスにある。
マスターの渡辺昭男さんは、ベースとなるウォッカに粒胡椒を漬け込んでいるのだ。

胡椒を漬け込んだウォッカ
ウォッカに粒胡椒のエキスが沁み出し、色味も変化している。

「もう40年ほど前ですが、テレビを見ていたら、ロシアの家庭でウォッカに粉胡椒をたっぷり入れているシーンが映っていたんです。初めて見たものですから、驚きましたね。僕はそれを粒胡椒に変えて、ブラッディマリー用のベースにしたらどうかと思ったんです」

挽きたてを加えるのではなく、長く漬け込むことで、胡椒の辛味と香りが引き出され、キリリと引き締まった味わいになるというのだ。

ジュースは安定した味わいの缶入りトマトジュースを使用する。
胡椒、玉ねぎ、にんにく、タイム、セロリ、オレガノの6種のスパイスや香草と岩塩をブレンドしたクレイジーソルトを適量、直接グラスへ振る。
セロリパウダー2g、胡椒を漬け込んだウォッカ45mlをグラスに加える。
バースプーンでよくかき混ぜる。
食塩無添加のトマトジュース100mlを加え、氷を落とす。
1/8にカットしたレモンを加え、ステアする。

隠し味はセロリパウダーだった。

もうひとつのポイントは、セロリパウダーをバースプーン1杯ほど加えることだ。
香草のような風味の正体はこれだったのか。
「セロリパウダーは粉だけで味わうと、ほのかに青臭くほろ苦いのですが、トマトジュースと合わせるとトマトの青臭さが消えて飲みやすくなるんです」

インド原産のセロリを粉末にしたもの
インド原産のセロリを粉末にしたもの。バジルとはまた違った爽やかな風味がする。

シェイクをするバーもあるが、「EST!」では簡単に混ざるのでシェイクをするほどもでないという理由で、ビルドというグラスに次々注いでいくスタイルで仕上げていく。

そして、85歳になるマスターの話にちょっと驚いた。
「数年前には、胡椒の量を1.5倍に変えたんです。より刺激的な味になるかと思いまして」

さらに、こんな言葉も。
「コーヒーもウォッカに浸けてみました。コーヒーはオリジナルでブレンドしています。ストレートで飲んでもいいですし、甘味を加えてブラックルシアンというカクテルにしても喜ばれます」

いくつになっても枯れることのない探求心。それが一杯のカクテルをよりおいしくするのだ。

ブラッディマリー

――つづく。

店舗情報店舗情報

EST!
  • 【住所】東京都文京区湯島345-3 小林ビル1階
  • 【電話番号】03-3831-0403
  • 【営業時間】18:00~24:00
  • 【定休日】日曜
  • 【アクセス】東京メトロ「湯島駅」より1分

文:沼由美子 写真:渡部健五

yumiko_numa.jpg

沼 由美子(ライター・編集者)

横浜生まれ。バー巡りがライフワーク。とくに日本のバー文化の黎明期を支えてきた“おじいさんバーテンダー”にシビれる。醸造酒、蒸留酒も共に愛しており、フルーツブランデーに関しては東欧、フランス・アルザスの蒸留所を訪ねるほど惹かれている。最近は、まわれどまわれどその魅力が尽きることのない懐深き街、浅草を探訪する日々。