名古屋でカメラマンの中川カンゴローと合流して、オヤジツープラトンで門司港を目指します。でも、1日目の目的地は津山。せっかくなので、普段なかなか泊まらない土地で夜を過ごそうと思ったわけ。↑の関ヶ原を通過したときは、まだ旅の半分にも満たない頃。天下分け目の合戦に思いを馳せながら、実家メシを目指す旅の2回目です。
名古屋には名物料理がいろいろあるが、乗り継ぎの間に済ませるとなれば昼食はきしめん一択だ。在来線のホームにある立ち食いの店で、素うどんならぬ素きしめん。鰹節が効いて、これが旨い。満腹。あとは途中駅で買い食いでもしながら行こう。
が、そうは問屋が卸さない。12時30分名古屋発→13時12分大垣発→13時47分米原発、いずれも乗り換え時間が数分しかないのだ。しかも、ホームには売店がなく、飲み物くらいしか買うことができない。車内もけっこう混んでいる。まさか席取りに必死になるとは思わなかった。
「昔はちょっとした駅につくと駅弁売りがいたけどなぁ」
「弁当とお茶と冷凍みかん買って」
あのみかんが絶妙に旨くて……、いつの時代の話だよ!
米原からは長距離を走るローカル電車に乗ることができたので、姫路まで約2時間半を居眠りしながら過ごすことができた。体力が回復したところで、いったん山陽本線を外れ、本日の宿泊地である津山に向かおう。ここには、まだ食べたことのない名物料理、ホルモンうどんがあるのだ。
B-1グランプリで上位入賞したことで全国に知られるようになった津山ホルモンうどんだが、津山とホルモン料理の関わりは古い。津山には奈良時代に市が開かれた記録があり、古来から牛馬の流通地点だったため、肉を食べる文化が根づいているという。その伝統が肉の処理スピードの速さに活かされ、鮮度のいいホルモンを堪能できる。で、飲み食いした後の〆の定番として愛されているのがホルモンうどんということらしい。
姫路で姫新線に乗り換える。姫新線は兵庫県の姫路と岡山県の新見を結ぶJR西日本のローカル線で、津山は沿線の主要駅。僕たちが乗ったのは2両編成タイプで、短い駅間をキビキビと走る。部活からの帰宅時間にあたるのか、学生を中心に車内は混み合い、座ることもできない。
途中で2度乗り換え、津山駅についたのは18時43分だった。
「ホルモンうどん、ホルモンうどん」
呪文のように唱えながら駅を出る。そんなにホルモンが好きかと問われれば、そうでもないと答えるしかないのだが、朝からおにぎり1個ときしめんしか食べていない胃袋が、カロリー補給を強く求めているのだった。問題はどこに行くかだ。名物だけあって、津山はホルモンうどんを提供する店が50店舗以上もある。
「今夜はどこに泊まるの?」
吉井川にかかる橋のたもとで夕焼け空を見ていたら、通りかかった地元のオヤジに声をかけられた。日課のウォーキング中らしい。ホルモンうどんをどこで食べようか考えていると言うと、オヤジは「お?」という顔になり、少し眉間にシワを寄せつつ断言した。
「いろんな店があるけど、地元の一番人気でオススメの店ならあるよ」
ほう。その理由は?
「鮮度が抜群で値段も手頃な居酒屋です。ただ、いまから宿に行ってそれからとなると席があるかどうか。急いだほうがいいですよ。じゃ、私はこれで」
言い残すとさっさと歩き始めるウォーキングオヤジであった。悩んでいるところに地元民からの自信アリ気な情報提供。これは行ってみるしかない。
ホルモンうどん店を教えるためだけに姿を現したと思えるほど、絶妙のタイミングで通り過ぎていったウォーキングオヤジオススメの店へ直行すると、運良く座敷席が空いていた。まずはビールで乾杯し、串焼きを頬張るとコリッとした歯ごたえだ。馴染みのあるメニューで比較すべくもつ煮込みを頼んでみたら、プリプリ感がすごかった。
噂のホルモンうどんも、さすがの旨さだ。肉がいいのはわかっていたが、味噌や醤油をベースにしたタレに独特の甘辛さがあり、ホルモンから出た濃厚な出汁が加わってパンチ力も申し分ない。こんなのをしょっちゅう食べていたら夏バテ知らずになりそうだと思ったが、長時間&長距離移動後の僕とカンゴローは、最後の追い込みでバッタリと箸が止まってしまい、デザートのアイスを買いにコンビニに駆け込んだのだった。
――明日につづきますよー。
文:北尾トロ 写真:中川カンゴロー