西荻窪の酒場は優しい。常連客にも一見客にも、穏やかに接してくれる、そうなのだ。素敵な話。酒飲みたちが、多士済々な酒場を巡りたくなるのも、わかるわかる。今宵は「コノコネコノコ」で、前菜おまかせ3品盛り↑からスタート。“生ハム、おかひじき、夏野菜のミニサラダ”と“枝豆とコーンの白和え”に“やわらかレバーペースト”ですよ。
しばし、ほかの土地に住んだが、どうしても帰りたく、2004年に西荻窪に再び戻ってきた。
西荻の店のいいところは、個人営業の店が多く、30年前と変わらず客を実に大切にしてくれるとこだ。カウンター中心の店でも、常連だけを相手にするわけでなく、優しくさりげなく初めてのひとり客でも声をかけてくれる。
そんな店のひとつに「コノコネコノコ」がある。西荻窪駅北口にある野田駿大郎さん、美生さんの夫婦でやっている。まだ2年ほどの営業だが、よく客が入っている。多国籍料理を謳っているが、駿大郎さんが中華料理の店にいたこともあって、辛さを客の希望のままに出す麻婆豆腐や竹せいろで蒸し上げる焼売もいける。
まず、僕が頼むのは雲白肉(ウンパイロウ)だ。
駿大郎さんが「絵みたいですよね、雲のような白い肉って」って言う。なるほど、豚ロースのブロックを蒸したもののスライスが並ぶ。まだ蒸したてだ。辛味をつけた醤油につけて食べると、口ににじむ脂の甘さが多幸感を呼び寄せる。で、奄美の黒糖焼酎「浜千鳥の詩」のロックで流す。添えられたキュウリを食べたら、涼味もやってくる。脂の甘さと、黒糖焼酎で調子がグッと上がる。西荻の一杯目はこうして始めるのが一番だ。
ところで、「コノコネコノコ」にはミュージシャンで画家の原マスミさんの絵が数点飾られている。僕は吉本ばななさんと原マスミさんと頻繁に海外に取材旅行に出かけたので、原さんのチャーミングな絵に囲まれるのも嬉しい。美生さんが原マスミさんの熱狂的なファンなので、原さんのライブがある日は「コノコネコノコ」も店を休む。それだけは曲げない。
好きなことのある人がやっている料理屋は、それだけで信用できるのだ。
――つづく。
文:石原正康 写真:石渡朋