熊本の天草には黄金に輝くハモが揚がる。その理由は定かではないが、豊かな内海で育ったハモは身が柔らかく、澄んだ美味しさ。築地でも高級魚として扱われる。この時季に特に旨味を増す、「黄金のハモ」を味わいに、天草を訪れてみた。
はふっ。“黄金のハモのしゃぶしゃぶ”をいただく。ハモの身を味わうためポン酢もつけず。身は柔らかく旨味と適度な脂。たまらない。
熊本県上天草市大矢野町の漁港に揚がるハモは金色に輝き、「黄金のハモ」とか「金ハモ」と呼ばれる。この町だけが使えるブランドだ。築地市場では「芯がない」と表現する身の柔らかさ、特に800g程度のものは骨切りがしやすいと人気で、キロ8000円程度の高値で取り引きされることもある。普通のハモが5000円程度なのでその人気ぶりがうかがえる。
「大矢野黄金のハモ部会」の部会長で漁師の嶋元秀司さんに聞いてみると、ハモははえ縄漁で、10m間隔で釣り糸がついた1300mのはえ縄を10本流すという。この時季の餌はアジ。なんと贅沢な。ハモは夜行性ゆえ漁は夕方から明け方まで。絞めた黄金のハモは死後硬直する前に築地に届くのだそう。絞め方については企業秘密。
「黄金のハモ」が獲れる不知火海(八代海)は九州本土と天草諸島に囲まれた穏やかな内海。そのため外海で育ったハモより性格も穏やかと言う。当たり前に噛みつきはするが。荒波に揉まれることもないので皮が厚くならず身も柔らかくなる。不知火海には多くの川が注ぎ込み、プランクトンも豊富、さらに餌にはこの海のシンコ、コノシロ、アジ、タコ、カニ、エビなどを食べていて、贅沢そのもの。ヨダレが出そうな食物連鎖、美味くならないわけがない。
ただ、ここで獲れるハモが、なぜ金色に輝くのかについては、「餌が違うから」「比較的浅瀬にいるから」など諸説あって明確にはわからないようだ。冒頭のハモしゃぶを含め“団子汁”“天ぷら”などの“黄金のハモコース”をいただけるのは上天草の和食・すし処「天慎」。天草ラブで明るい林田恵美子さんが、女将を務める店だ。
柔らかい黄金のハモは、骨切りして湯引きすると反り返り、綺麗に花が咲いたようになる。余分な脂も抜けて食感は軽い。真っ白の身に赤い梅肉、黄色い酢味噌を添えると見た目も美しい。“団子汁”は地元の地鶏、天草大王の出汁がベースのコクのあるスープにすいとんと黄金のハモで楽しむ。美味。通詞島の塩、甘い湯島大根など天草の食材が黄金のハモによく合う。ハモは鱧という漢字で表される通り味わい豊かな魚。ビタミンA、D、コラーゲン、皮にはコンドロイチンも含む。タンパク質も良質で脂も乗り、昔から生きたまま京都に送れるほどの生命力を持つ。
この取材後も酷暑の毎日。いつもはバテやすいのだが元気でいられるのは取材時に食べた生命力の強い黄金のハモのおかげなのでは?と密かに思っている。土用の丑の日に鰻が定着したように、亜熱帯化した日本の酷暑を乗り切るには「黄金のハモ」が切り札になるかもしれない。夏の毎週金曜は「金ハモ」の日にしたくなってきた。
文:川井潤 撮影:大道雪代
※この記事はdancyu2017年9月号に掲載したものです。